第628話

 さすがに、そこまではっきりと、男装が似合うといわれてしまうと、朝倉も怒る気が失せた。

 自分をここまで導いてくれた大恩ある師匠である。

 それは生意気な口をききもするが、基本的には尊敬しているし、彼の判断については尊重している。


「俺がやるのが一番効率がいい、か、身も蓋もねえ言いぐさだな」


「うむ。というか、お前にそのような気を使っても仕方あるまい」


「まったくだ」


「という訳じゃ、受けてくれぬか、朝倉よ。頼む。魔法協会の方から、報酬については十分出させるから」


 報酬が問題ではないのだが、お前しか頼るものがいないといわれてしまうと、さすがに悪い気がしない。

 胸がなくて、男に見えるから、という理由はムカツクが、この際、そんなことを言っている場合ではない。


 それにおそらく、推薦された理由の中には、魔法使いとしての技量も含まれている。

 理事の中でと言った辺りがそれを端的に表している。すなわち、ただの魔法使いでは太刀打ちのできない相手なのだろう。


「しかたねぇな」


 しぶしぶ、という感じに、朝倉は頭をかくと、師匠の面前ということも気にせず深いため息を吐き出したのだった。

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