第596話

 朝倉が弟子のノエルに提示した解決策はいたってシンプル。

 ダブったシールをウェハースと梱包して、再び元の状態に戻すというものだった。


 そして、その、元に戻したアメージングマン・ウェハースを、孤児院の子供たちにプレゼントしてやるという、実に理に適ったものだった。


「保存状態も良好。シールの量も十分。となれば、これしかないだろう」


「けど、いいんですか、師匠。一度あけちゃったものを」


「いちど買っちゃたものをだろう」


 なに、それよりも、子供たちに喜んで貰うことの方が意味がある。と、朝倉は腕を組んで言う。

 その言葉に、いざ来るまで懐疑的だったノエルだったが、実際こうして、配るお菓子を喜んで持っていく子供たちを見ていると、なるほど、確かにその通りだと納得したのであった。


 そして、それと同時に、有意義な金の使い方というものについても、彼女は学んだようであった。


 ほっこりとした顔をするノエルを眺めて、孤児院の職員と朝倉がほほ笑む。

 朝倉よりずいぶんと老け込んでいる孤児院は、はてと、何やらその光景を前に、何かを思い出したような顔をした。


「そういえば、その昔、朝倉様にも、大量にお菓子の寄付をしていただいたことがありましたね」


「その話はよしてくださいよ」


「それ以来、毎月、いろいとご援助していただいて。まこと助かっています」


「これからはうちの弟子もそうするだろうよ。ただ、すまないね、あいつはまだ見習いだから、お小遣い程度しかできないが」


 ふふふと笑う職員と朝倉。


 この師にしてこの弟子あり。

 はたしてそんな生暖かい視線の中で、ノエルはどんどんとウェハースを子供たちに配るのであった。


「ありがとうノエルおねーちゃ!!」


「ありがとう」


「どういたしまして!! 子供たちの笑顔を作るのも、ノエルに課せられた宿命ですからね!! えへんぷい!!」


「――ほんと、調子のいい奴」

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