第594話

 食べ物である。しかも、包装をすでに解いてしまったものである。

 当然、買った菓子屋に突き返すこともできないし、今更なかったことにすることもできない。


 唯一、いらないからとゴミのように、捨てていなかったのがまだ救いだろう。

 もしそのような外道行為を弟子がしでかしていたならば、いったいどんな制裁サブミッションをかけてやろうかと、朝倉も気を揉んでいた。


 しかしそこはノエルも最低限、常識というか良識を持ち合わせていてくれたようだ。


「冷蔵の魔法をかけてるから、食べれるはずです」


「食べきれるかは?」


「――うぅっ」


「まったくお前はこういう欲望にすぐ負けるんだから」


 この馬鹿たれめと額に指をあてる。あてぇ、と、叫んだノエル。

 もっと酷い折檻を受けると思っていただけに、その朝倉の仕置きは彼女にとって意外であった。


 さらに――。


「じゃあ、しかたないな。ダブったシールはどれくらいあるんだ」


「――へ?」


「汚れてないだろうな。まぁ、浄化魔法を使えばなんとかなるか。とにかく、このウェハースを、このままにしておくことはできないだろう」


 朝倉は問題解決に対して、思いのほか前向きな姿勢を見せたのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る