第593話

「うぅっ、それはたしかに、そうかもしれませんけどぉ」


「ポン子ちゃんだけじゃなく、カミュちゃんにまでウェハース渡したんだろ。今も、どれだけストックが残ってるんだ」


「えっと」


 怒らないから見せてみなさい、と、朝倉がにらみを利かせていう。

 もうすでにその態度が怒っているのではないか、と、切り返す余力もなく、しぶしぶとノエルは自分に与えられた勉強机へと向かう。

 その一番下、鍵がかけられるようになっている戸から、ぬるり、その容積に見合わない大きさの袋を取り出すと、これだけ、と、不安げな顔を朝倉に向けた。


 まぁ、そのくらいのことは予想はしていた。

 魔法で戸棚を拡張して、収納容積を増やすくらいのことは、ノエルでなくてもできることだ。


 そして、今まで与えた銀貨を、すべてウェハースにしていたのだとしたら、それくらいの量になるのは仕方のないことだろう。


 はぁ、と、深いため息が、げんこつの代わりに工房の床へと落ちたのだった。

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