第591話

 なぜ朝倉が怒っているのか、なぜ、自分が説教されているのか。

 なによりも、どうしてここまでの剣幕で、怒られなければならないのか。


 訳も分からずノエルは絶句し、その場にまたへたりと座り込んだ。


「シールがダブってカミュちゃんにあげたそうだな」


「――は、はい」


「ダブるくらいに買い込むってことは、いま、何種類くらい揃えてんだ」


「六十種類くらいです。けど、最近は、買っても新しいの出なくって」


「当たり前だ、そういう仕組みの商売なんだから」


 弟子の訳が分からないという表情は依然として変わらない。

 すべてのシールが均等に刷られているというのなら、買えば買うほどに当たり――つまり、まだ持っていないシールが出る確率というのは小さくなっていく。


 この手の商売を否定するのは朝倉の本意ではないが、度を過ぎたのめりこみについては、ノエルの保護者として、そして師匠として、当然責任を感じていた。

 どうしてもっと早く気づいてやれなかったのだろうか、と。

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