第584話 熟睡する弟子

 すよりすよりと寝息を立てて、朝倉の膝の上に寝転がるノエル。

 結局、三回ほど絵本を読み聞かせると、その三回目の途中にして、彼女はそのままぐったりと眠りこけてしまった。


「なんというか、こうしていると、まだまだ子供だなぁ」


 実際、まだ、大人というには難しい年齢のノエルである。

 かといって、こんな風に親に甘える年頃でもない。


 しかしながら朝倉はそんな、自分の膝の上で熟睡する弟子を、とやかくいう気になれなかった。

 生い立ちのこともあるがそれよりも――。


「やっぱ、弟子には甘くなっちまうのかな。はじめての弟子だからわからんけれど」


 うちは鬼師匠だったから、その反動かもな、と、パラケルススのことを思い出して笑う朝倉。そんな彼女も、そのままうとりと、ソファーの上で意識を失ったのだった。


 まだ、それは彼女たちが、師匠と弟子として未熟だったころによく見せていた光景。

 懐かしい彼女たち師弟の原風景であった。


「――うぅん、この、バカ師匠がぁ!!」


「――弟子ぃいいいっ!!」


 夢の中で二人して殴り合っているのか。それでも心地よさそうに、そして、楽しそうにほほ笑む二人に、窓から優しく月の光は降り注ぐのだった。

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