第583話 師匠とご本

「師匠、ご本読んでください」


「読んでくださいって歳かよ」


 ソファでくつろいでいた朝倉のもとに、ノエルが絵本をもってやってきた。

 文字の勉強にと、弟子になってすぐの頃に彼女に買ってやった本である。時々、ノエルはそれを持ってきては、朝倉に読んでくれるように頼むのだ。


 もちろん、朝倉も疲れているからソファーで休んでいるわけで、そんなことをして疲れたい訳ではない。


「もう一人で読めるだろう。というか、丸暗記しててもいいくらいだ」


「えぇ、けど、声に出して読んだほうが、情感が伝わってくるんですもの」


「お前は本当にときどき、気持ちの悪いくらいに正論を言うな。だったら自分で口に出して読めばいいだろう」


「口、動かすの、面倒くさい」


「俺だって面倒くさいわ」


 ぐちぐち言っている間に、読んだほうが早くすみますよ。

 そう言って、朝倉の膝の上にころりと頭を置いて、絵本を差し出すノエル。


 こうされてしまうともう、この弟子に逆らうことができない。


「――むかしむかしあるところに」


「もっと抑揚をこめてください!! そんな自動読み上げ魔法みたいなのじゃやです!!」


「面倒くさい奴だなぁまったく」

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