第582話 弟子と巨匠

 ノエルの奇抜なセンスについては、以前にも話題になった通りである。

 料理対決で指名されたのについても、芸術家の側面を併せ持つ宮廷道化師に、その側面を意識されてのことでもあった。


 そして今、魔法テレビでの戦いを受けて、再びノエルにその手の仕事が、ちょいちょいと舞い込んでくるようになった。


「ノエル巨匠。これは、このうずたかく積まれた、レンガの山はいったいどういう」


「うむ、これはその、ノエルの心象風景を表しているといいますか」


「なるほど。つまりどのような」


「ええと――師匠ぉ」


「芸術を師匠に語らせるなよ、巨匠」


 その奇抜なセンスは認めるところだが、それがどういう意図をもって作られたのか、言葉にすることには長けていないノエル。泣き顔を向ける彼女に、そうなるならば作るなという感じに、朝倉は冷たく横顔を向けた。


 時に、巨匠とは孤独である。


「――悪ふざけでレンガ積み上げてただけなんて、絶対に言えんよなぁ」


 しかし、時に、真の理解者というのは、いるものだ。ただまぁ、それを口にしてしまうと、このうずたかくそびえたつレンガの山が、ただのガラクタになってしまうので、何も言えなかったが。


「すごい――これはまた傑作だ。作った本人も言い表せないだなんて」


「そそそ、そういうやつですね、きっと、そうです。たぶん」


「――はぁ」

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