第575話 師匠と愛弟子(その2)

「さよなら、トマトさん。君のことは、絶対に忘れないよ」


「うぉい、なにさらっとトマト人の皿に移そうとしてるんだノエルちゃん」


「これは抗えぬ別れなのです。こんなにもみずみずしいトマトさんと別れるのは悲しいけれど、二人が分かり合えない以上、一緒になることはできない」


「魔法テレビの昼ドラマみたいなこと言ってごまかすな!! トマト栄養あるんだからちゃんと食べんか、このアホ弟子!!」


「やですぅ!! こんな悪魔の実、食べられる訳ないじゃないですか!! 冗談はよしてください!!」


「冗談じゃねえよ、本気だよ!!」


 オラオラオラオラと、フォークでつついてトマトをお互いの皿にパスしあう朝倉とノエル。

 そのコンビネーションたるや大道芸のごとく、皿に乗っている時間がほとんどないという始末である。


 とうとう、フォークの上だけで舞いだしたトマト。


「いいかげんにしろ!! 育ちざかりなんだから、好き嫌いは、ダメだろっ!!」


「オギャァアアアアッ!!」


 トマトを弟子の口にシュート。

 見事にフォークの腹でたたいて、それをノエルの口の中へと着弾させた朝倉。


 勢いのままに、ノエルはそれを胃の中へとおさめたのだった。


 こっちはこっちでまた、違うベクトルでの仲の良さである。


「ったく、毎度毎度手間とらせやがって」


「――くくくっ、胃の中に入れたくらいで、ノエルのトマト嫌いが治ったと、そう思ったら大間違いですよ師匠。ノエルにはまだ、トマトくんリバースという必殺技が」


「ヤメロぉっ!!」

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