第574話 師匠と愛弟子(その1)

「――ごちそうさまでした」


「こらっ、カミュ。口の周りにソースがついていましてよ。はしたない」


「――うぅっ」


「服の袖で拭こうとしないの!! あぁもう、しょうのない子ですわねぇ!!」


 南条の工房の昼下がり。

 トマトソースのスパゲティを食べていたカミュ。その口の周りがべっとりと汚れているのを見とがめて、南条は自分の食べる手を止めて立ち上がった。


 魔術的なことならなんでも知ってるホムンクルス。しかしながら、人間の文化にはまだまだ疎い。割と大人な見た目に反して、どこかまだまだ幼稚な性格をしているカミュを、南条はときどきこうしてたしなめていた。


 それもこれも、愛弟子まなでしとして彼女を思えばこそである。


「――ありがとう、ございます、師匠」


「まったく。ソースもまたこんなにこぼして」


「――ごめんなさい」


「これは風呂に入ったほうがよさそうですわね」


「――やったぁ」


 弟子のよくわからない反応に首をかしげる南条。

 思いのほか、よく、彼女は弟子になつかれているようだった。


「――お風呂、お風呂。師匠、早く入りましょう」


「はやく一人で入れるようになってくださいまし」


「――むぅ。一人だと、お背中流すの、大変です」


「一理ありますわね」

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