第572話

 結論からいうと、スライムにより、朝倉が探している文章は見つけることができた。

 朝倉の想定通りに、スライムは壁に引っかかって、その文章がどこにあるのかを、はっきりと視覚的に示してくれていた。


 しかしながら――。


「めっちゃ、張り付いてますね、スライム」


「だな」


「なんで特徴的な文章がこんなにいっぱいあるんでしょうか」


「――祭りに関する文献がそれだけ多いってことなのかもしれない」


 スライムが引っ掛かったのは、一つだけではなかった。そして、三つ四つでもなかった。十近くもあるその文献が書かれているだろう候補地を眺めると、自然、ため息が漏れ出てくる。


 単語の選び方を間違えたのだ。

 できるだけ汎用的ではない、頻出しないであろうそれを選んだつもりだったが、意外とその文字は使われていたらしい。


 まだまだ、朝倉も修業不足という他ない。いや、何を探せばいいのかもわからないような状況なのだから、それも仕方ないのかもしれないが。


「とりあえず、スライム、いらん奴は溶かすか」


「そうしますか」


 まぁ、一応数は搾れたことだし、よしとしようそんなことを思いながら、弟子と師匠はスライムをバケツの中に集めていくのだった。


「しかし師匠、こんなの国の遺跡に対して、勝手にやってよかったんですか?」


「――ははは、まぁ、たまには楽したっていいじゃないのよ、ノエルちゃん。私らもこれだけ毎日頑張ってる訳なんだから」


 それはそうと入口の司書さんにはばれないように、こっそり廃棄するぞ、と、天才魔導士朝倉は、ノエルにそっと耳打ちするのだった。

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