第567話

 お菓子をご褒美に子供をやる気にさせるのは、子供を操る常套手段である。

 とはいえノエルもお年頃、そろそろそういうのもあっさりとは通じない。しぶしぶという感じに朝倉に付き合う腹を決めた彼女は、明らかにやる気のない目で、壁の文字を眺めていた。


「ししょー、ノエル、古代語よく読めないんですけど」


「厨二病患ってるんだから、そういうのは勉強しとけよ」


「むー、たしかにうねうねしてて、もにょもにょしてて、書けたらそれだけでなんだか、格好いい感じですけれど――正直、複雑すぎて覚える気になれません」


「まぁ、そうだろうなと思って、俺も対策は考えてきた」


 そう言って、おもむろに朝倉は薄い懐から、一枚のわら半紙を取り出した。

 書かれているのは、壁にみっちりと記載されている文字と同じものだ。


「探さなくちゃいけない文字だけ書いてきた。これが書かれている場所を見つければいい」


「――おぉっ!! さすがはノエルの師匠、準備がいい!!」


 その祭りを指し示す、古代語を、あらかじめ書きとってきておいたのである。

 これならば、文字の読めないものでも、それを探すことができる――。


「けど、この無数にある部屋を全部回ると思うと」


「いうな弟子よ、その辛さは俺も同じだ」

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