第563話

「今回の訪問は王勅でしたね? 確か――」


「千年前の祭りをやるから、その資料を引っ張り出して来いとさ」


「大変ですね」


「本当さね」


 そして、それをどうしてここの司書が、さらりと他人事のように言うのか。

 朝倉は頭を抱え、ノエルは首を傾げた。


 司書といっても彼女は名ばかり、この図書館への入館者を管理するだけの人間である。というのは、言うまでもなくこの図書館の特異性のためである。


「大変とは、どういう意味です、師匠」


「ここの図書館は、ちょっとばかり特殊でな」


「もしかして、どっかのお話しみたいに、中がダンジョンになってたりするんですか?」


「いやいや、さすがにそこまでは。まぁ、似たようなものではあるんだが――」


 そう言って、朝倉は床の埃が散るような、深いため息をその場に吐き出した。

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