第562話

「いらっしゃいませ。ようこそ、王立図書館へ」


 そう言って出てきたのは、この地に留まった住民の一人にして王国の文官。

 王立図書館を任されている女性司書であった。


 もちろんエルフではない。

 癖の強い赤毛を三つ編みにして揺らし、そばかすの多い顔をにったりと間の抜けた笑顔で染めている、幾分と親しみやすい感じの司書である。


「お待ちしておりました、朝倉・クラヴェル・クローデットさま。それと、そのお弟子の、田中・えぇと」


「ノエルでいいですよ。こいつのミドルネームは適当なものですから」


「あぁ、ひどいです、師匠!! 人の名前くらいちゃんと憶えないとダメですよ!!」


 よく、師匠の姉弟子とか、カミュちゃんの師匠とか、そんな風に南条のことを言っているノエルが言えた義理ではない。

 やかましくなるだけだからやめなさいという朝倉に食い下がるノエル。

 そんな二人のやり取りに、くすりくすりと、赤毛のそばかす女は笑った。


「はじめまして、私は当館の管理を任されております、司書、新嶋・レム・フレアと申します」


「はじめましてフレア女史」


「はじめまして!!」

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