第494話

 管理室から続いている暗く冷たい廊下。

 城の各階の壁の合間、人ひとり分の幅しかないその空間は、水路と呼ばれている冷却剤――ろ過し聖別を施した水――を循環させるための設備である。


 管理室に詰めている魔法使いは、この冷却材を過冷却魔法をかけて、また、氷結しないように循環させる仕事をしているのだ。

 そのコントロールの性質上、冷却材は一様に同じ性質のろ過水である必要がある。

 不純物の混入は、このような冷房システムのダウンにつながり、それを防ぐために、定期的に管理室詰めの魔法使いは、水質のチェックなどを行っている――のだが。


 朝倉が言ったように、外から異物が混入してきたというのなら、それはもう仕方ないことであった。


「おぉう、寒い。外は夏まっさかりだというのに、ここはまるで雪山のよう」


「うっかり冬眠するなよノエル」


「師匠ぉ。ノエルのもこもこ持ってきていいですか」


 もこもことは、彼女がいつも寝ぐるみとしてつかっている、熊のはく製である。

 そんなもん着てますます冬眠するつもりである。やめとけ、と、弟子の額をびしりとはじくと、朝倉はげんなりと顔を細めた。


「さてさて、鬼が出るか蛇が出るか」


「出るのはスライムなんじゃないですか」


「言質とる分には元気なのなお前――まぁいい。とにかくさっさとスライム捕まえて、冷房システムを復活させるぞ。暑くてかなわんからなぁ」

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