第493話

 さぁ、これで、大手を振って海へ行ける、とは、ならない。

 やはり彼女たちは魔法使いであり、朝倉は、こういう困ったことがあった時に、どうにかするための宮廷魔術師である。


 じんわりと、温かみの増して来た城内。

 その冷房システムの管理室の前へとやって来た彼女と弟子は、管理室にある二つの扉のうち、ほの暗く、湿った音が響いているその中を覗いて、腕を組んでいた。


「水質チェックはこまめにやってたのか」


「はい。週一で。記録表もちゃんとあります。ご覧になりますか」


「いい。それならきっと雨漏りかなんかで、天然水が流れ混んだんだろう」


 スライムは魔法生命体の練習として用いられるほど、簡単に作ることのできるモンスターである。適度な雑菌と魔力があれば、すぐに生成することができる。

 それだけに自然界に存在する材料と、ちょっとした魔力に充てられて自然発生する。


 そうならないように、城の冷房システムは冷却材として利用している水を、しっかりと浄化して運用していたのだが――不備というのはどこでも起こるもの。


「まずは雨漏りしている箇所の特定だな、それと並行してスライム退治だ」


「わかりました、すぐにスライム駆除のため水路ダンジョン巡り装備を」


「いや、それは俺とノエルでやっちまうよ。アンタらは外回りをやってくれ」


「しかし――」


 失態を犯したのは作業員である。その自覚からか、スライム退治を彼の方から言い出したのだが、あえて、それを朝倉は断った。

 別に、彼を気遣ってのことではない。


「外なんて暑くて出られない。まだ、水路ダンジョン巡りの方が、気が楽だ」

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