第491話

「ぐぬぬぬぬ。まさか師匠がここまでの出不精とは。ノエル、ちょっと師匠のこと見損ないまいしたよ」


「いや、そこまで言うことないんじゃないかな。というか、唐突な水着回テコ入れに、どうかなと苦言を呈しているだけであって――」


「水着になるだけで読者倍増、目についてうはうは、過去の話も読んでもらえて、あわよくば単行本を買ってもらえるかもなんですよ!!」


「そもそも論として、どうしてそんな漫画の主人公みたいな思考展開に陥るのか。いいかいノエルちゃんまずはしっかりと現実を見よう」


 これは漫画でもアニメでもないのよ、と、朝倉がそっとノエルを諭す。

 どちらかの主人公であれば、彼女の主張はもっともである。今すぐにでも、服を脱ぎ捨てて海に出て、たわわに実ったバストを晒して、あっはんうっふんするべきである。だが、残念ながら、それは彼女が物語の主人公だったならばの話。


 そういう風に、いろんな物事の中心に自分を据えてモノを考えてしまうのが、厨二病患者の悪い癖。流石に朝倉も、彼女のそんな言動には慣れてはいたが、そこはそれ断固としてノーを突き付けた。


「そんなことより修行だ修行。お前、暑いからってサボれると思ったら大間違いだぞ」


 そう、魔法使いの本文は研究である。海遊びなど、別にどうでもよいのだ。

 弟子の願いをすっぱりと朝倉が一蹴したその時だ。


 がうん、と、何やらあまりよろしくない音が、頭の上から降り注いできた。

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