第490話

「いいじゃんかよ、お前、わざわざそんな暑い中出て行かなくっても。工房の中は、適度に冷却魔法が聞いてて、快適に過ごせるんだから」


 面倒くさそうに頬杖を突きながら、執務机の上で眉間を狭める朝倉。

 じっとその視線は、彼女の頭上にある天井へと向けられた。


 朝倉の工房はいわゆる間接冷房という奴を使っている。

 熱交換機で空気の熱を外へと逃がすのではなく、屋根の上に夜間のうちに結晶させた氷を使って熱気を吸収しているのだ。


 魔術師の工房といっても、冷房といえば扇風機に毛が生えたのが関の山くらいなご時世にあって、なかなか金のかかった魔法設備である。

 ちなみにこの魔法の仕組みは、彼女が寄宿している王城全体に施されており、これに魔力を供給・稼働させている管理魔術師が常駐していたりする。時たま、彼らが調子の悪い時などには、ピンチヒッターに、ノエルがその役を引き受けたりするのだが――さてさてそれは閑話休題。


「こんな快適な場所を離れて、わざわざ炎天下の中に飛び込んでいこうなんて、どうかしているぜおい」


「むぅ!! 師匠ってば、いくらなんでもものぐさすぎます!! 夏といえば海、冬といえば雪山、春と言ったら出会いと別れ、秋と言ったらバーベキュー!! どうしてそうも風流を解さないんですか!!」


「何が風流だ。文明人にはそんなもん関係ないんだよ」


 もっともなご意見である。

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