第473話
「そういえば、師匠は若い頃に、こうなった時、どうやってほとぼりが冷めるまで過ごしましたの?」
思いがけない弟子の言葉に、盆栽を弄っていたパラケルススの手が滑る。
彼が丹精込めて育てた枝のひとつが、はたりと落ちたかと思うと、はぁ、と、彼はため息を吐きだして、それから弟子の方を向いた。
「どうやってか。難しい話だのう。もう随分と昔の話じゃから」
「師匠もボケはじめちゃってるからな。今とご時世も違うだろうし」
「こりゃ、クローデット!! ワシをボケ老人扱いするでない!! まだまだ、昨日の晩御飯くらいは、ちゃんと覚えておるわ!!」
それを覚えているからといって、どうなるというのだろう。
そんな引き出しが出てくるあたりで、もうこの師匠は長くないのかもしれない、と、そっと不肖の弟子二人は不安になるのであった。
「なに、ちょうどその頃、嫁さんと出会った時期じゃったからな、逃げ回るついでに世界旅行としゃれこんだわ。人間、なんでも気の持ちようというもんじゃぞ」
しかし、予想の斜めを上を行く、その元気な回答に、朝倉も、そして、南条も、やはり師匠は師匠であったかと、どこか間の抜けた顔をするのであった。
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