第461話

「とりあえず、あと三枚、原稿を仕上げちまえば終わりだから」


「分かりました!! それで、その原稿は――下書きしてあるんですか?」


「まぁ、あるにはあるんだが。大切な所は後で俺が書き足すし、まずは今から言うカットを無地の原稿用紙に」


「締め切りまで時間がないのでしょう!! 大丈夫です、師匠の絵柄を完コピするために生まれてきたこのノエルなら、下書きがあれば完璧に師匠の漫画を再現してみせます!!」


 頑なとして、原稿にペンを入れると主張して退かないノエル。

 適当に原稿を描かせて帰っていただこうとしていた朝倉たちは、その言葉にしばし途方に暮れた。


 もちろん、ずぶの素人――ともするとそれより酷い彼女に、原稿を触らせることなどできるはずもない。


 さんざ悩んだあげく。


「とりあえず、下書きのコピーを取って来てくれ」


「分かりましたわ」


 泣く泣く、鉛筆で下書きした原稿をコピーしてバックアップを取るという手段に出た。当然、デジタル原稿ではない、アナログ原稿である。コピーしたラフの線は、消しゴムでは消せない。


「――これはいよいよ、代原をはやく探さないと」


 南条は原稿をわきに抱えて、ノエルによって破壊された玄関で靴を履きながら、そんなことを呟いたのだった。

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