第460話

「駆けつけてくれたのは嬉しいが、素人に原稿を任せる訳にはいかない。サインでもなんでもやるから帰ってくれ」


「気遣いは無用ですよ師匠!! 師匠はノエルの心の師匠なのですから――たとえ初対面でも、強い絆で結ばれているのです!!」


「――どうしよう、南条、この娘、怖い」


「――ドア破って入って来た時点でおっ察しするべきですわ」


 どうしようかこれ、と、やる気満々のノエルを前に辟易とする二人。

 可憐な少女が部屋の前で息巻いているその光景は、遠目に見るとほのぼのとしたギャグマンガの一コマだが、吹き飛ばされた扉やら光のない瞳やらを一緒に勘案すれば、ばっちりとホラーな光景である。


 もちろん、この作品がギャグ魔法小説の特別篇で、彼らが実際別世界で、実の師匠と弟子だと言うことを知っていれば――話は別なのだが。


「子供だからな、警察に通報するのもどうかと思うし」


「ここはひとつ好きに描かせて、満足させて帰らせるというのはどうです」


「それでいこう」


 予想だにしない展開に思わず弱気になった三十路女二人は、十代の少女に押し切られる形で、しぶしぶ原稿を任せることになった。

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