第24話 かまちょな彼女とスマホ
「シゲ君、お願いがあるんだけど」
「ん? どした?」
「“すまほ”貸してほしいんだ」
千寿の口から珍しい言葉が飛び出した。
しかもちょっとイントネーション違うし。
某死神漫画のおまけページじゃないが“歯茎”みたいになってるし。
「どういった風の吹き回しで?」
「昨日ね、おかあさんと電話しててね――」
「おかあさんって……うちのか?」
「うん」
「なんだよ。連絡とってるのか」
「二日に一回くらいは電話してるよ」
「まじか」
実の息子の俺には半年くらい電話を寄越したことないのに。
別にいいんだけどさ。
「それでね、おかあさんが最近“○いん”ていうのを覚えたみたいで、便利だから覚えてみたらってなって。でも私“すまほ”持ってないから、じゃあシゲ君の貸してもらいなってなって」
どうやらそういうことらしい。
○インとは無料で音声電話やメッセージを送ることが出来るメジャーなアプリのことだ。
一応俺のスマホにも入ってはいる。
入ってはいるがまったく使ってはいない……交わす相手がいないからな。
言わせるなよ、くそぅ。
「だから貸してもらってもいい?」
「ああ。そういうことなら構わないぞ」
俺は○インを立ち上げ、千寿にスマホの操作を簡単に説明してあげた。
「おお~。最近の携帯電話ってすごいんだね。これだとアトムが生まれる日も近いね」
「君はいつの時代の子供かね」
てろん。
そのとき、○インにメッセージが送られてくる。
――千寿ちゃん、届いとるか?
「これっておかあさんから?」
「ああ」
「お返事してもいい?」
その後、俺が仕事をしている後ろで千寿は不慣れながらもスマホで母と○インを続けていた。
てろん。
てろん。
てろん。
てろん。
ずいぶん長いことやってるなぁ。
別に千寿も無理やり付き合わされてるって感じはないし、いったいどんな話をしてんだ?
「ふふ」
千寿が小さく笑う。
本当に楽しそうだ。
なんか俄然話題が気になってくる。
こういうものって聞いてもいいものなんだろうか?
そうは思ったものの、俺は好奇心に負けてついつい尋ねてしまう。
「なあ、なにをそんなに熱中してるんだ?」
「うん。これ」
意外なことに千寿はすんなりとスマホを見せてくれる。
しかし。
「な――」
それ以上に予想外だったその画面を見て、俺は大きく目を見開いた。
「な、なんだよこれ!?」
「えーっと、シゲ君の小さい頃の写真?」
「ちょ、ちょっと貸してっ」
俺は画面を滑らせてラインの履歴を確認する。
そこには母が写真に収めていた俺の黒歴史と言うべき、画像の数々が載せられていた。
あのアマっ、いつの間にデータ化してたんだよっ。
「あ、この写真可愛いよね。小学一年生のシゲ君が怖い映画見たせいでトイレ行けなかったから、おねしょしちゃったときのやつ」
「いやああああああああああああああああああああああああああああああああああっ」
しかもその詳細まで知られている。
なんという公開処刑。
「ちょ、千寿、止め! これ見るの禁止!」
「え? なんで? 可愛いのに」
もちろん俺はその場で抗議の電話をした。
母と千寿が仲良くなり過ぎるというのも考えものかもしれない。
かまちょな彼女 箱野郎 @hakoyarou
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