第23話 かまちょな彼女とプール3

「おまたせ」

 しばらくして千寿が新しい水着に着替えてきた。

 俺はその姿にポカンと口が開きっぱなしになってしまう。

 巴と同じビキニタイプだった。

 しかし、ふたりにはあからさまな違いがあった。

 主に胸のあたりにっ。

 とてつもない存在感がそびえたっている。

 ……どうやら千寿は着やせするタイプらしい。

「幸重さん。視線がえっちいですよ。そういうのはさり気なく見ないと女の子はわかっちゃいますよ~」

「な――。ちが、そうじゃなくてっ」

 いや、そうだけども!

「……」

 千寿も恥かしそうに胸元を隠して俯いてしまう。

 これは非常に気まずかった。

 なので、強引に話を進めることにした。

「と、とにかく! 早く遊ぼうぜ」

「ま。そうですね~」

「あ、シゲ君、手を引っ張らないで……っ」

 その後――。


 巴が流れるプールを逆走して監視員に怒られるわ。


 ウォータースライダーに目覚めた千寿に何回も付き合わされるわ。


 じゃんけんに負けて一番高い台から高飛び込みさせられるわ。


 ……。

 …………。

 ………………。


 日が暮れるまで俺たちはプールを遊びつくした。

 そして、今は帰りの車の中だ。

「……もう嫌だ。プール行かない」

「あっ。知ってますよ、それツンデレってやつでしょ。幸重さんってば照れ屋さんですね~」

「違うわっ。パンピーが安易にオタク用語使わないのっ!」

 もう魂が抜けかかっている俺に対して、巴は行きと変わらず元気ハツラツだ。

 ええい、jkのスタミナはバケモノか。

「あー……明日から筋肉痛だぞ」

「え~? 情けないなぁ。楽しかったね、千寿」

「うん」

 こくりと頷く。

 即答だった。

 表情はあまり変わらないが、雰囲気がほくほくしていし、目もキラキラしている。

 あれはマジなやつだ。

「シゲ君もともちんもありがとうね。私、夏休みでこんなに楽しかったの初めてかも」

「おお~。嬉しいこと言ってくれるね~」

 かいぐりかいぐり。

 後部座席でふたりがじゃれあっている。

「でもこんなことでお礼なんて言ってたらきりがないよ。これからはもっと楽しい思い出増えるからね」

「ともちん……?」

「ね? 幸重さん」

「え?」

 巴がバックミラー越しにウィンクしてくる。

 たしかに今日の千寿は終始楽しそうにしていて、傍から見ても嬉しくなってしまう。

 こんなに喜んでくれるなら車を借りてまで来た甲斐があったというものだ。

「まあな。たまにならこういうのもいいかもな」

「やったー。じゃあ次は来週の花火大会ですねっ」

「ちかっ」

「花火大会……」

 千寿が噛みしめるように呟く。

「屋台とか出てるしきっと楽しいよ~」

「……シゲ君?」

「ぐっ」

 じっと見つめてくる千寿に、俺は言葉に詰まってしまう。


 ちづが

 はなびたいかいに

 いきたそうに

 こちらをみている。

 どうしますか?


 どこぞのロングヒットRPGのようだった。

 そして、困ったことにこの選択肢にはNOがない。

「も、もちろん」

 俺は頷くしかなかった。

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