第18話 かまちょな彼女と夕食


 千寿と母が帰ってからすぐに夕飯にすることになった。

 帰りが遅かったので何かデリバリーを頼もうと提案したのだが……。

――「スーパーで夕飯の材料買ってきたから大丈夫だよ」

――「せやで。あんなん高いだけで上手くないやん。あんま無駄遣いしいなや」

あえなく却下されてしまった。

 新発売のピザ食べてみたかったのになぁ。

 今は千寿と母が今、キッチンで一緒に料理を作っているところだ。

 俺はというと完全に放置されている。

 さみちぃ。

 誰も構ってくれないのでゲームの続きをやるしかなかった。

「なんや、千寿ちゃん。めちゃ手際ええやないの」

「そんなことないです」

「こりゃ教え甲斐があるってもんやな」

 ふたりは和気あいあいと料理に勤しんでいる。

その姿は何だか見ていて微笑ましい。

「それに比べてうちの息子はなぁ……」

 その後姿に目がいっていた俺に、いきなり小言が飛んできた。

「ぐむっ」

 これはもう弁解の余地はない。

 創作活動以外になるとどうしても腰が重くなってしまうのだ。

 嵐のときのように、俺は甘んじてそしりを受けるしかなかった。

 そのとき千寿と目が合う。

 本当に楽しそうにほほ笑んだ。

 その笑顔に見惚れてしまう。

「……」

 ま、まあ千寿に免じて許してやるぜ、母よ。

 ふたりの料理は続く。

「……緊張します」

「ええか? フライ返しは思い切りが大事や。一気にいくんやで」

「出来た。出来ました、おかあさんっ」

「さすが千寿ちゃんや! あたしが見込んだだけのことはあるわ~」

 何やらひと際盛り上がっていた。

「それに比べてなぁ……」

 ちらり。

 また母が冷ややかな眼差しを向けてくる。

 あ、嵐よ去ってくれ――――っ。

 ……。

 …………。

 ………………。


 そんなこんなで数分後、夕飯が出来上がる。

 お好み焼きだった。

「飯やで、役立たず」

「辛らつだな!」

 もはや意味のない暴言だった。

「まったく。千寿からも言ってやってくれよ」

「うーん……でもシゲくんもお料理出来たほうがいいと思うよ」

 あれ?

千寿さん?

「せやよな~、千寿ちゃん」

 なでりこなでりこ。

 母が千寿の頭を撫でている。

 いつの間にか二対一になっていた。

 ふたりが仲良くなったのはとても喜ばしいことなのだが、少しだけ複雑な気持ちだった。

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