第14話 かまちょな彼女と期末テスト


 作家というものは少なからず読者のニーズに応える作品を作らなければならない。

 そういう意味もあって作家は流行に敏感だ。

 という建前のもと、俺は新しいものに目がなかったりする。

 そんなわけで俺は昨日届いたVRゲーム機を起動させていた。

「お、お、お」

 モニターではなく、視界そのものがゲーム世界!

 臨場感あふれる迫力のサウンド!

「お、お、お、お~~~~」

 俺は今、最先端を体感しているぅ~~~~っ。

「ち、千寿! ちょ、これっ! これしゅごい、しゅごいよおおおおおおおおおおお」

 年甲斐もなくテンションが上がり、呂律が回らなくなりつつも、俺はその素晴らしさを必死に伝える。

 VRゲーム機のゴーグルを装着していて見えないので、

「んー、ちょっと待って。もう少しで一段落するから」

 すると、ヘッドフォン越しに返事があった。

 どうやら千寿は今手が離せないらしい。

 実は千寿の学校はテスト期間に入っており、彼女はまさにその勉強中だったのだ。

 かぱり。

 ゴーグルを外してみると、千寿は真剣な表情でノートにペンを走らせていた。

 おお、頑張ってるな。

 テスト勉強か、懐かしい。

 一夜漬けで何とか乗り切ったっけなぁ。

 しかしテスト期間中ってなんであんなに掃除がはかどるんだろう。

 ん? と言うかこれは――。

 客観的にこの状況を確認してみる。

 テスト勉強に励む女子高生。

 その隣で年甲斐もなくゲームに白熱し喘いでいる25歳の男。

「……」

 あ……これあかんやつや。

 その見た目のヤバさに戦慄した俺は、ゴーグルを置いて仕事机へと向かう。

「あれ? もう止めちゃうの?」

「お、おう。今日の日経株価指数をチェックしようと思ってな」

「シゲくん、株なんてやってたっけ?」

「作家もいわゆる自営業、何が起こるかわからないからな。リスクヘッジは大事だし、コミットがゼロベースでイニシアティブなんだぜ」

 もちろんそんなことはやっていない。

「……?」

 しかし必殺意識高い系横文字連打で千寿の頭にクエスチョンマークが浮かんでおり、どうやら誤魔化すことには成功したらしい。

「それに千寿が勉強頑張ってるのに、俺だけゲームやってるのは悪いだろ?」

 本当はVRゲームをもっとやりたいっ。

 もっと最先端を体験したいっ。

 しかし、俺にだってゴマ粒くらいのプライドはあるのだ。

「別に気にしなくていいのに。本当に集中したかったらシゲくんの部屋でやらないよ」

「で、でも」

「それに私、シゲくんがゲームしてるところ好きだし」

 俺の迷いを遮るようにして言ってくる。

「そうだったのか……」

「うん。なんか子供みたいで可愛いと思うよ」

「ぐぬっ」

 なんか思ってたのと違う。

 だが、どうやら千寿は俺がゲームをしていても邪魔ではないらしい。

 それどころか好きとまで言ってくれているのだ。

 好きなのであれば、その期待に応えねばならぬだろう。

 作家として。

 エンターテイナーとして!

「そういうことなら仕方ないな」

 免罪符を得た俺はそそくさとゴーグルをかけ直す。

 かくして俺のゴマ粒プライドは見事に擦り下ろされた。

 そして。

「うお、何これ! どういうことだってばよ! 千寿、見てこれ、見て!」

「んー、ちょっと待って」

 勤勉女子高生と駄目な大人の図が完成されたのであった。

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