第13話 かまちょな彼女とレアゲット
「ただいま」
「おー」
いつものように千寿が俺の家にやってくる。
「シゲくん。レアゲットしたよ」
そう上機嫌に言いながら学校のカバンを探る。そして、取り出したのはデジカメだった。あれはつい先日まで俺の部屋の隅っこでほこりを被っていたものだ。機械音痴な千寿が興味深そうに箱の裏の説明を見ていたので、いい機会だから貸している。
俺はスマホで事足りるしな。
ちなみに千寿は最近の若者にも関わらず携帯端末を持っていない。
まあ本人は全然不便を感じていないようだが。
千寿はデジカメに手作りのストラップなんかを作って愛用してくれているようだ。
やはりモノは使われてなんぼだろう。
デジカメもきっと喜んでるはずだ。
不慣れな感じでデジカメを操作する千寿。時折「あれ?」とか頭の上にクエスチョンマークを浮かべつつも、なんとか目的の画面を出せたらしい。
デジカメの画面を見せてくる。
「なんだこれ?」
そこに映っていたのは車だった。
しかも見切れてるし。
「千寿って車好きだったっけ?」
「なんで? そんなことないよ」
「だってこれ車の写真だろ?」
「違うよ。あ、そうでもあるけど……」
「どっちやねん」
「車じゃなくてここ見て、ここ」
ちょっとムキになった千寿がずずいっと画面を一緒にのぞき込んでくる。触れるまで近づいた彼女からシャンプーの甘い香りがした。
彼女の無防備な行動にどきりとしてしまう。
「シゲくん? そんな離れたら画面見えないでしょ」
「お、おう。すまん」
俺の気も知らずに……。
気を取り直して千寿の指さすポイントに注目してみる。
「車のナンバー……?」
「うん。“相模”ナンバー。珍しいでしょ」
「あー……そう言えば」
ここら辺の車のナンバーと言えばもっぱら“湘南”や“横浜”だ。調べてみたところ、“相模”ナンバーは二十年以上前にこの地域では使わなくなったらしい。
確かに千寿の言う通り珍しいものなのかもしれない。
「最近はまってます。珍しいナンバーの写真集め」
「巷では大人からちびっ子までが○ケモンを捜し歩いていると言うのにこのjkは……」
時代の流れに故郷に戻ろうとしているシャケよろしく逆走する、彼女の細やかな楽しみに思わず涙腺が緩む。
「私はこっちのほうが楽しいからいいの。せっかくシゲくんのデジカメ使えるようになったんだし」
千寿が頬を膨らませながらデジカメをいじる。
そ、そうだったのか……。
なんか悪いことしちゃったかな。
「そう言えば今度母さんがこっちに車で来るって言ってたな。実家の車は確か”なにわ”だからこっちではあまり見られないんじゃないのか?」
ちらりと横目をやる。
「……」
唖然と目をぱちくりしている千寿と目が合った。
「お母さんが……来る?」
「お、おう」
「大変っ」
「おわぁ」
いきなり立ち上がった彼女に、俺はびくりと肩が跳ねてしまう。
「ど、どうしようっ……」
「どうしようとは?」
「ご挨拶しなきゃ」
どうやらそういうことらしい。
髪を手で梳かしたり、制服を整えたりしている。
「いやいや。今すぐ来るわけじゃないから」
「あ。そっか。ねえ、シゲくんのおばさん……ううん、お義母さん」
何やら納得したように頷く。
「お義母さんって好きな食べ物は?」
「おふくろの? ベタだけどたこ焼きとかかな」
「私、作って歓迎してもいいかな? あ、でも本場の人だから私なんかが作ったら未熟すぎて怒られちゃうかな」
「怒りはしないと思うぞ。まあ、おふくろは自分で作りたいほうかな」
「………………どうしよう。たこ焼きなんて作ったことない。これはもう明日から修行しなきゃ」
何やらぶつぶつと呟いており、俺の言葉はもう届いていない。
もう車のナンバーの話も彼女の頭からはなくなっているみたいだな。
哀れ相模ナンバー……。
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