第5話 かまちょな彼女とデイリーミッション

 今日も千寿は俺の家へと来ていた。

 彼女は今、俺が出版社のパーティーのビンゴパーティーで当たった今度 アニメ化する作品のジグソーパズルに挑戦しているところだ。

 俺はこの作品のファンだし、パズルのイラストもいい。

 額に入れて飾りたいくらいなのだがひとつ大きな問題があった。

 パズル5000ピースなんだわ、これ。

 さすがに敷居が高い。

 俺がお手上げ状態だったとき、名乗りをあげたのが千寿だった。

 こういったコツコツやるのが好きらしい。

 山のようにこんもりしているピースと睨めっこをしている。

 あ。ひとつはまった。

 すげぇな。

 俺は何気なくスマホを取り出して、アプリを起動させる。

 すると、千寿が振り返った。

「何それ、ゲーム?」

「うん。ソシャゲ」

「課金してるの?」

「いいや。まだ無課金でやってる。これはデイリーミッションとかあって、毎日それをコツコツこなすだけでも結構遊べるんだ」

「……ふぅん」

 頷いた彼女の頭にクエスチョンマークが浮かんでいる。

「全然わかってないだろ」

「そんなことない。意味だけはなんとなくわかるよ」

 千寿は現役の高校生のわりに電化製品に疎い。どの程度なのかはまた次の機会にでも話をしよう。

「デイリーミッション……」

 千寿がぽつりと呟く。

 そして、

「てれてれってってー」

 不思議な音を口ずさんだ。

「おお。なんかレベル上がった」

「違う。これはシゲくんにデイリーミッションの音が発生した音」

「紛らわしいな」

 どうやらそういうことらしい。

「それでどんなミッションなん?」

「……」

「考えてなかったのかよ」

 考えるようにしていた千寿がはっと息をのむ。

 ん? どうしたんだ?

 彼女が少し赤くなりながら口を開く。

「じゃ、じゃあデイリーミッション。……“私のことを好きって言って”」

「へ?」

 思わず間抜けな声が漏れてしまう。

 えーっと、“私のことを好き”て言うって……。

 私って言うのは千寿で、好きって言わなきゃいけないのは俺だよな、当然。

 それって――。

 やだ……このミッション難易度高すぎ……っ。

「……二回」

 なんか追加ミッションきた!?

 千寿、なんでちょっと欲張ったし!

 もちろん俺は千寿のことが好きだ。

 だが、こうやって改めて言うとなると超恥ずかしい!

 ちょっと情けないかもしれないが別のものに変更してもらおう。

「あのー、千寿さん。そのミッションなんだけど――」

 目を瞑り、髪を耳にかけてこちらに傾け、背筋を伸ばして正座している。

 超聞く気満々の姿勢だった。

 千寿さあああああああああああああああああああああああああああああああん!?

 これはもう変更なんて不可能じゃないか。

 ど、どうする!?

 いや、もはや俺には“やる”か“DO”の選択肢しか残されていない。

 

「お、俺は――……」

 ぴくり。

 千寿の肩が跳ね上がる。

「………………俺は千寿が好きだ」

 言った。

「……」

「……」

 水を打ったように沈黙が落ちる。

 そして――。

 ぽしゅん。

 千寿の顔がまるで売れたリンゴのように真っ赤になった。

 こら、マジで照れるな。

 あとなんか言ってくれ。

 俺も赤面してしまう。

「……」

「……」

 悶絶する俺と千寿。

 あと一回……。

 結局、このデイリーミッションは失敗に終わった。

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