第4話 かまちょな彼女とこちょこちょ

「シゲくん。私は今から君をくすぐります」

 ある日、いきなり千寿がそう宣言した。

「へ? なんだよ、いきなり」

「拒否権はありません。覚悟して」

 両手をわきわきしながらにじり寄ってくる。

「ちょ、千寿さん? 真顔で怖いんですが――」

 俺はすぐに壁際まで追い詰められてしまう。

 そして。


 こちょこちょこちょこちょこちょこちょこちょこちょこちょこちょこちょこちょこちょこちょこちょこちょこちょこちょこちょこちょこちょこちょこちょこちょこちょこちょこちょこちょこちょこちょこちょこちょこちょこちょこちょこちょこちょこちょこちょこちょこちょこちょこちょこちょこちょこちょこちょこちょこちょこちょこちょこちょこちょこちょこちょこちょこちょこちょこちょこちょこちょこちょこちょこちょこちょこちょこちょこちょこちょ。


「あはっ。うわ、マジか!? や、やめ、あは、あはははは、……あっひょ」

「あ。○ーフィー」

 真似したわけじゃないわい。

 て、それどころじゃない!

 首。

 脇。

 脇腹。

 足の裏。

 千寿は身体の隅々まで、風呂場のカビ掃除をするが如く細かにくすぐってくる。


 十数分後――。

「お、俺が何をしたと……」

 あからさまなオーバーキルだった。

 ビクンビクンと痙攣する。

 そんな汚されてしまった俺を見て、千寿はほっと胸を撫で下ろす。

「お、……お前は鬼か」

「あ。違う。これは実験」

「実験?」

 俺はどうにか起き上がりながら尋ねる。

「実は今日友達から教えてもらって……その、くすぐっても笑ってくれなかったら、嫌われてるかもしれないって」

 なるほど、そういうことらしい。

 だからあんな真剣にくすぐっていたのか。

 やれやれ……そんなことを真に受けちゃって、こいつは。

 おかげで明日は筋肉痛だぞ。

インドア派舐めんな。

「とにかくまあ……俺の気持ちは十分伝わったろ?」

「う、うん。シゲくんは私の虜」

「やかましいわ」

 俺がふざけて手を振り上げると、千寿が素早くベッドから枕を拾って頭のガードを固める。

 彼女の実験は成功に終わった。

 こうしてこの件は無事に幕を下ろした……かと思われたが。

「ん?」

 ふと、俺はあることに気付く。

「千寿、そう言えば俺がくすぐりで笑ってなかったらどうしてたんだ?」

「……」

 返事が返ってこない。

 俺が乾いた喉をごくりと鳴らしたとき、千寿がゆっくりと口を開く。

「……秘密」

 自分の唇を人差し指で触れる。

 あ。可愛い。

 て、そうじゃない。

 その後、いくら尋ねても結局教えてもらえなかった。

 もちろん俺が気になって眠れなかったのは言うまでもないだろう。

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