エピローグ
時刻は、午前7時。
外は当然、明るくなっている。
僕たちは、警視庁の捜査一課にいた。けっきょく、ほとんど一睡もできなかった。
あれから、本当に大変だった。深夜の銃声で、病院中は大騒ぎだった。
「ふぁー」
欠伸が止まらない。
「明宏君、失礼でしょ」
明日香さんに、怒られてしまった。
「いやいや、かまわんよ。坂井君、コーヒーをもう一杯飲むかね?」
「ありがとうございます、真田さん。うーんと苦いやつをお願いします」
僕と明日香さんは、真田課長と一緒にいた。鞘師警部は、取り調べ中だ。
「桜井君、坂井君、今回は君たちには、大変危険な目にあわせてしまったね。警視庁を代表して、お詫びさせてもらうよ」
「いえ、お詫びなんて、そんな――ですよね、明日香さん」
「はい。私たちが、進んで巻き込まれたようなものですから」
「本来なら、君たち民間人に頼むことではないんだが、結果的に良かったかもしれないな。特に坂井君は、二人の命を救ってくれたんだからな」
「いえ、そんな――」
「でも、私もびっくりしました。明宏君が、大嶋警視に体当たりしたときは」
「僕も、びっくりしました。無意識に、体が動いたので――」
「そうか、しかし、あんまりむちゃはしないでくれよ。民間人にケガをさせては、私のクビが飛ぶからな」
と、真田課長は、冗談半分に笑いながら言った。
「二人とも、疲れただろう。今日は、もう帰って休みなさい。誰かに事務所まで送らせるよ。君たちの車も、後で届けさせるよ」
僕たちは、8時過ぎに明日香探偵事務所に帰ってきた。
「そういえば、明日香さんは、どうして鞘師警部が北海道から帰ってきてるって知っていたんですか?」
「私の車の後ろを、鞘師警部の車が走っているところを見たからよ」
いつの話だろうか?
「そんなことよりも。明宏君、今日は本当にご苦労様。でも、あんまり危ないことはしないでね。明宏君に何かあったら、私――」
「グー……グー……」
「ちょっと、明宏君、寝てるの?」
「ふぇ? 寝てないですよ」
「いびきを、かいてたじゃない」
「いびきですか? 気のせいですよ」
危ない危ない、また緊張感がないと、怒られるところだった。
「そう? でも、寝てないから疲れたでしょう?」
「ええ、まあ多少は――明日香さん、ちょっとここで寝てもいいですか?」
やっぱり、眠気には勝てない。
「ここで? ――だったら、私の部屋で休む? シャワーも浴びたいでしょう?」
「えっ!? あ、明日香さんの部屋でですか?」
憧れの、明日香さんの部屋に入れる!
僕は、眠気が一気に吹き飛んだ。
「ちょっと待って! やっぱり今のなし!」
「ど、どうしてですか?」
「明宏君、何かいやらしいことを考えているでしょう?」
「そ、そ、そ、そんなこと――考えてないですよ」
「嘘! だって、いつも以上に挙動不審よ!」
「そんな言い方しなくても――まるで、僕がいつも挙動不審みたいじゃないですか!」
「だって、そうじゃない!」
「お姉ちゃん、おっはよう!」
そこへ、明日菜ちゃんがやってきた。
「車がないから、居ないのかと――何してるの?」
明日菜ちゃんは、不思議そうに僕たちを見つめていた。
探偵、桜井明日香2 わたなべ @watanabe1028
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