4話 悪魔の笛は平和を奏でる[前編]
ウォルターは口を開いた。
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実は既に、子供を誘拐しようとしたことがある。
1週間ほど前の話。再び発生した害獣であるネズミを退治した。金銭のような報酬のやり取りはしなかった。が……、退治を終えて恐れを持ってコチラを見る目を町長から読み取り、
ウォルターは派手な服を身にまとい、ピエロのような仮面を被り、ハーメルンの町にやってきて、笛を吹いた。子どもたちは出てくる、親が子を呼ぶ声がする。
その声に、意志が揺らいだ。運命の書は絶対である。だが、ウォルターの運命は絶対ではなかった。
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「……変な話なんだけど、ボクの運命の書は何も書かれていなかったんだ。子供を誘拐しろとも……むしろ、害獣退治すらも、運命に記されてなかった」
「空白の書……」
「空白の書?……ボクだけ変なわけではないのか。あの真っ白な本ってそういう名前なんだね、ちょっと安心した」
「……けど、なら何故あなたは子どもたちを誘拐しに町に現れたんですか?する必要がなかったんでしょう?」
「"笛吹き男"の運命がそうだったから。……ボク達の家系は代々その運命をもらってきてたんだ。だから、ボクもそれに沿おうと思ったんだよ、真っ白なのは……空白の書なのは、何かの手違いかと思ってね……」
さて、話の続きだ。そう再びウォルターは語り始める
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だが、理性というのは強制されてなければ躊躇いを生む。非道なことを強制されて行うより、自主的に行っている方が心を痛め、決意も揺らぐのだ。
子を呼ぶだけではなくしがみつくように止めようとしている親を見て、思わず顔がこわばる。
特にウォルターは、ハーメルンの町の子どもたちが大好きであった。自分の吹く笛に合わせて歌ったり踊ったり、演奏をねだってきて笑顔を見せる、この町の子供……否、町の人たちが好きであった。
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「……それで、どうしたの?」
そのまま再び口を閉ざしたウォルターにレイナは続きを促す。
「……おおかた、予想はつきますけどね」
ふぅとシェインはため息をつけば、タオはウォルターの前に来て続きを告げた。
「やめちまったんだろう。笛を吹くのを。笛を吹くのをやめたら、不思議な笛の効果はあらわれねぇからな。初めて会った時が時がそうだった」
「…………」
ウォルターは自分の言葉で続きを伝える。
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そう、笛を吹く手を止めてしまったのだ。子どもたちは笛の音が止むと同時に我に返り、縋り付いていた親たちにニコリと笑って、抱っこだと、眠たいから帰りたいよとぎゅっと抱きしめた。
親……特に母親は、自分の息子、娘を失う運命を必死で受け入れようとしていたところだ。すがっていたのも最後の別れだから、と抱きしめていただけにすぎない。それが変わったのだ。今消えるはずの子どもたちが手の中にいるのだ。それはもう、愛しく抱きしめ返した。涙する親もいた、子供に苦しいと言われても離さない親もいた。
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「ソレを見ていると、すごく罪悪感が溢れて……。その場から逃げたんだ。町の人たちに何言われるのかわからないし……謝って済むことでもないから」
それに、次ボクがあの町に来たらこんどこそ連れてかれる。って思ったんだろうから。きっかけはそこじゃないか。それがボクの心当たり。みんなとなら大丈夫かと思ったけどやっぱそうでもなかったし、本気で警戒してるんだろうね。
そう苦笑する姿になんと声をかければいいか、4人が迷っていると、ほら、丘が見えてきた。なんてウォルターはその話題を終えた。
丘はもうすぐそこ。草木もなく、大地がこんもりと盛り上がってるそこはとても見晴らしがいい。が、メガ・ヴィランの姿は見えなかった。
「?いれば少しは目立つと思ったんだが……あんな派手な奴」
ん?と周囲を見てみるタオにウォルターはあっち。と丘の麓を指差した。
「あっちに洞窟があるんだ。……もしもボク……んや、父さんの、笛吹き男の代わりをしているならそいつはそこにいるはず」
一行は言われたとおりの場所へ向かう。そこには石で蓋をされていた痕跡のある洞窟へ来た。中に入れば、ヴィランたちがコチラに襲いかかってくる
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現れたヴィランたちを倒すタオファミリーを、ウォルターはあいも変わらずに影に潜んで戦いを見守っていた。戦う力があれば加勢する気はある。のだが、あいにく父からは笛の吹き方と父自身の運命についてしか教えてくれなかった。
あの時、エクス、レイナ、タオ、シェイン みんなに1つだけ、伝えなかったことがある。
確かに、ボクは"笛吹き男"の息子だし、ボクの家系では"笛吹き男"の運命が代々、受け継がれる形に運命の書に記されている。これは父さんも言っていたから間違いない。
けど、それは「数十年に一度」くらいの頻度であって、息子がそのまま"笛吹き男"の使命を負うことは基本的にないのだ。子供の数が増えてからじゃないとこの物語は成立しない。それまでは基本的にゆったりとした生活が続く。
そのことに気づいたのは、例の失敗を犯してからすぐのこと。
まず、子供の数が少なかった。父は130人もの子供を引き連れていたがあの時出てきたのは35と半分以下どころの話ではなく、明らかに数が合わない。間隔が狭すぎて、新しく生まれた子供がいなかったのだ。
次に、親の慌て方が尋常じゃなかった。町から離れる時に、本当にどうして連れ去ろうとしてたのか、あの町の人たちは理解ができていなかったのだ。
「代々"笛吹き男"の運命は繰り返されている」という父の説明を、浅く汲んでいた自分の過ち。空白故に、自分の使命もそれなのだろうと受け取ったのだ。自分もいつかは"主役"になるのだと。
物語のほつれの本当の原因はそこなのだろう。町人たちは完全なる被害者。引っ掻き回してほつれたそれに、巻き込まれて自分たちも物語を引っ掻き回した。それだけ。……けど、それはこの人達に教えることも、ないだろう。
黒の害獣は4人の旅人たちによって一掃されていく。
思案しているこちらに進むことを指示されればウォルターもその後ろについていった。ヴィランというその害獣が落としただろう弓をこっそり拝借し、後ろへついていった。
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笛吹き男の想区 宝石狐 @JewelFC
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