DIE8話 生と死の取引き

 彼女の話では、学校の友人がお盆休みに近所の神社で肝試きもだめしをした翌日、本人の様子がおかしくなったという。その肝試しをした神社で、おはらいをしてもらったが、一向に改善しなかったそうだ。カミシノは、その神社に原因があると思い当たり、その神社で彼女と待ち合わせることにした。無論、当事者である彼女の友人も連れてくると約束した。小高い山の上にある大きな鳥居の小さな神社。そのヤシロの名前は、浜寺神社という。またの名は、浜神寺社。最寄り駅は、阪堺線浜寺終点停留場。

 カミシノが着く頃には、既に彼女も来ていた。だがしかし、肝心かんじんの友人の姿が見当たらない。

「その友人は、どこに?」

 カミシノがたずねると、驚きの答えが返ってきた。

「友達は、ないよ」

「どういう事なんだ!」

「だって、そんな友達は存在しないのだから‥」

 ぜんとするカミシノだったが、すぐに状況をあくした。

「お前、彼女じゃないな?」

 カミシノの言葉と同じくして、雲の切れ間から満月が姿を現すと同時に彼女の人影が狼の姿へと変化へんげした。それを見てカミシノは、一言つぶやいた。

「お前の正体は、影狼かげろう…」

 カミシノの言葉に彼女は、不敵な笑みを浮かべた。

「ふっふっふっ。ご明察めいさつ‥」

「狼き…つまり、狼少女ってわけか。それで、お前の用件は何だ?」

「聞き分けの良いやつだな。単刀たんとう直入ちょくにゅうに取引きをしよう。貴様が地獄に送った男の身体から間一髪、この小娘の身体に乗り換えたというのに宿主やどぬしである小娘の器が小さい。」

「そこで提案だ。誰か都合の良い宿主を探してくれないか?」

「もし嫌だと言ったら?」

「この小娘の命はない。」

 そう言うと、どこからともなく、出刃包丁を取り出した。

「やめろ!」

 影狼はおどすようにして、彼女の手の甲に包丁を走らせた。白いはだからにじみ出る真っ赤な血。

「殺させねえよ」

 そう呟くと、カミシノは黒い背広のフトコロから閻魔の笏刀シャクカタナを取り出した。そして、カミシノが笏をにぎると、閻魔の笏が刀へ変化へんげした。

「下手なマネをすると、この小娘の命はないと言っただろ?」

 そう言いながら、狼きの影狼かげろうは、彼女の首筋に包丁を突き立てた。

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