Ⅲ.エンディングは大団円か
仲間と合流後、ここからが本当に大変だったようだ。少年自身も、以前より剣技が遥かに上達した以外は何がなんだか理解できていない現状で当たり前だったろう。
この想区、本来の
少年も体験談を、何とか言葉で伝えようと苦心して説明を続けているのだが三人に全く理解される気配もない。むしろ興味の対象は、城が消滅した後の城塞内だろう。
「それで、あんたが伝えたい話。
シェインは呆れた顔つきで、どうでもいい内容だと掌を左右に振るだけだ。
「
タオは、少年の話に興味もないのか早く城塞に突入したいとうずうずしている。
「アーサー王って、世界最強だろう
新しいアーサー王想区に辿りつき、なぜか体調も回復したレイナだけアーサー王の実力と剣技に興味を惹かれているらしい。
「それで、伝説の勇者様?
シェインは全く信じていないのか、どこかバカにした表情で少年を睨む。
「
「何、バカな夢の話してんのよ。そんなこと、あるはずないじゃん」
シェインは、どこまでもバカにした態度で信じる気配もない。
「実際、強くなってるはずだよ、タオ。軽くで良いから手合わせしてくれないか?」
三人が信じる様子もないため、少年は実際に目で確認してもらうつもりだ。
「別に、ちょっとなら構わねぇけど、何度やっても俺に勝てるはずねぇじゃんよ」
タオも、何をバカなことをいってるんだと小馬鹿にした態度と口調だった。
少年とタオは、剣を上段に構えて正対で向かい立ちシェインの投げるコイントスを待っている状態だ。あまりにも自然体で隙さえ見えない少年に違和感を抱いた。そのタオの顔も、いつもの薄ら笑いよりは幾分か真剣な無表情のままで剣を構えている。
「いっくわよー! せぇの!」
チンと音を立て、シェインのコインが着地した瞬間を見計らい動きはじめたタオはあまりの驚きで目を瞠るしかない。コイン落下を意識した瞬間、すでに少年の全身は消えていてタオの後ろに回り、長剣を背後から頸動脈に充てられれば驚く以外ない。
「ええええぇぇぇぇっっ!?」
レイナは無言で口に掌を当てて声もだせない様子で、シェインは驚きの嬌声だ。
タオも、半ば以上あっけにとられたのか硬直した状態のままで呼吸を止めていた。
「タオに全くってぐらい適わなかったはずが、確かにいきなり追い抜いてるわね」
ようやく声を発したのは、普段の冷静さを取り戻したレイナだった。
「うん。物凄く教え上手な
少年は、タオに突きつけた剣を下ろすと謙遜するでもなく苦笑しているだけだ。
「まぁ、確かに速さも力もスゴイみたいだけど、そのアーサー王どうしたのよ?」
シェインも、奇跡の剣技を目の当たりにしてから俄然興味を覚えたようだ。
「多分だけどね。自分が死ぬ運命、変えられないから城ごと吹き飛ばしたのかな?」
「へっ?」
少年の言葉に、叫んだタオを含めた三人。再度、目を点にしている状況だった。
「どうして、そんな行動を最後に選んだのかしらね?」
レイナは、未だに半信半疑な状態でいるらしい。
「俺も判らないけど、何もない人生で最後に剣術を伝えられて満足したと話してた」
少年が説明しながら、自身も全く納得できていない状況は同様らしい。
「んー。ぜんぜん話が通じてないわねー」
シェインは、呆れを通り越したのか達観したらしい。言葉を区切って続けた。
「あんた自身が強くなるのは、結果として皆が助かるからいいのよ。判らないのは、物凄い魔法まで使える剣の達人が、なんで身内まで巻き込んで自爆するかなのよね」
「それは俺にも判らない。説明を、はぐらかされたからね」
本当に、少年も一切が謎だった。
「城塞内部まで侵入して、城跡でも調べれば何かわかるんじゃないかしらね?」
少しだけ、思案顔で悩んだ後レイナが発した言葉に全員、異口同音に声を揃えた。
「そーね」
「そうだな」
「うん。じゃあ、すぐ後ろに続いて決して離れないでね」
少年は剣を構えたまま、先陣を切って歩きはじめ、背後から三人が続いている。
巨大城塞の大きな正門前に回るが、おかしな様子もなく門扉は開かれたままだ。
「巨大な城が消滅して、城下の一般人は何も変わらない。覚えてもいないようだね」
「なんでかしら?」
少年に続いたシェインは、何故かあっけにとられている。
しかし、四人が正門を潜り抜けた瞬間に状況が一変する。近くにいた一般人全員、突如としてヴィランに変化したのだ。城下に出現したブギーヴィラン。大半、瞬時に倒してしまう少年。仲間たち、それぞれヴィランと向きあい驚きも隠せていない。
巨大な城があった何もない空間に四人が近づくと、ナイトヴィランが複数現れた。
正面攻撃が一切通じない強化された鎧のはずだが、なぜか皆一撃で葬りさる少年。
総てのヴィランを倒した瞬間だった。四人全員、その脳内に声だけが高く響いた。
「見事なり! 良くやった、少年。愛弟子としても、これで立派に免許皆伝だの」
思念だけの存在になったアーサー王の魂が、彼らに語りかけているらしい。
「アーサー王なんですか? 何故、キャメロット城を自ら破壊したんですか?」
意識せず少年は、何もない空に向けて顔をあげると大きな声で問いを投げる。
「キャメロット城を壊した件。それ自体に、意味はないさ。そうさのぅ、いつの日か少年も知ることになるだろう。己に与えられた宿命とか、自身成すべき運命とかの」
四人の脳内に、すぐさまヴァリトンヴォイスが鳴り響いた。
「その宿命とか、運命ってのは一体、何なんですか?」
自身が関係していた衝撃に、目を瞠って少年が呟く
「歪なグリムノーツ世界の謎。それと、少年を含めた四人に与えられた役目かのぅ」
声は良く響くヴァリトンのまま、なぜか少し飄々とした調子に聴こえる。続けて、少年だけに向けた感謝の言葉も伝えている。
「本当に感謝しとるぞ、少年。最後になって、直系の愛弟子ができて感激したわい」
「最後になるだろうから伝えておくかの。このグリムノーツ世界変革のために、汝ら四人が選ばれたのかもしれん。決して、運命に負けず最後まで己を貫くだけじゃな」
その言葉で、アーサー王の魂だった思念が消滅したことが四人に感じられた。
「運命とか変革とか、一体何なんだろう」
少年は、なぜか呆然とした表情で考えこんでいる。どこまでも真面目な性格だ。
「無駄に考えても答えなんて出ねぇし、いつか判るだろうさ」
タオは年長者の余裕からか、特に意識もしていない様子だ。
「そうそう。きっと考えても考えなくても未来は変わらないんだよ」
同じく能天気なシェインも、すぐに追随している。
「その通りね。先に進んでいれば、いつかどこかで言葉の意味も判るはずよ」
レイナは、自身の宿命を意識して内面に語りかけているのかもしれない。
そして、新たな想区に向けて旅立つ少年たち。
彼らの行く手に待ち受ける未来は明るいか? それは、未だ誰も知らない物語――
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