Ⅱ.秘めた能力と発露の結果
そもそも少年自身、どこにいるか認識できていない状況が先だったかもしれない。
少年は
頭部に強烈な痛みを感じることで、意識を失って倒れた状態だと理解させられた。
すぐに起き上がらなければ痛みが加速、二乗三乗に増加される状況を嫌というほど
理解させられた後だ。考えるより早く起き上がると少年は、意識して長剣を掲げた。
「なんだ。なんだよ。何が、アーサー王と円卓の騎士物語だとか伝説なんだよ!」
伝説と史実と現実は確かに違うだろう。今更、認識した少年は当事者的立場だ。
はっきり、伝えて良いかな? 彼我の英雄人物である、伝説的な存在アーサー王。
彼は、確かに天才的な英雄で偉大な最強の剣士だった。それだけは、間違いない。
単なる力自慢だけの天才とか、普段やる気がないタイプでもなく異質な存在だ。
彼自身天才であり、他人より優れていると知りながらストイックに努力する英雄。
長時間、剣をあわせる状況で次第に理解した。同時に、見えて感じた発見もある。
おそらく天才で、秘めた能力限界値に到達した経験がないのだと少年は判断した。
どうして、いわれた通りに行動できないのか? すぐに、反応を返さないんだ。
そんな感情自体、不可解なんだろうと思える。人間は経験がないと理解できない。
それでも、優しい英雄だ。何度でも少年が追随する限り、最後まで止めなかった。
「さて少年。ひとつだけ最初に問うておこうか。本当に、強くなりたいのかね?」
もちろん、一番はじめに訊ねられた際に「
そもそも少年自身、あまり深く考えることもなく返答した状況が悪いのだろう。
「それでも誰よりも強くなりたい。ただ、強くなりたいだけなんだ」
その気持ちは、
わざわざ、高難度魔法陣で描く時間概念が存在しない空間を構築しての訓練だ。
おかげで、少年が現在まで生きてきたよりも長い訓練時間を費やしているはずだ。
おそらく、良いか悪いかとかでなく単に原因と結果なんだろうと想像できた。
身体能力が抜群に優れているからとか、単に才能があるからでもないのだろう。
少年に強くなった実感はある。相当なスピードアップ、筋力強化も認識していた。
もちろん少年は普通の人間だ。当然限界も多く、できないことは絶対にできない。
「それでも強くなる。実践を経て知ることができた世界。いつか、そうだいつの日か何かを手に入れるために大切な力! 大事な人たちを守れる強さを手にするために」
少年は強い決意を胸に秘め、すでに何度目かも意識せず気力だけで立ちあがった。
「トリスタンとイゾルデ」この言葉、一度ぐらい耳にしたことがあるだろうか?
後世、大作曲家リヒャルト・ワーグナーによるドイツ語台本19世紀のオペラ。
12世紀から13世紀当時、欧州(特にフランス)で新たなアーサー王文学が数多く出現した要因の一つが、ジェフリー『列王史』と派生作品が名声を得たからだという意見は一般にも多く認められる。しかし、ジェフリーの作品が広く知られる以前からアーサー王伝説に関する知識が、欧州に伝わっていたと示す明確な根拠も現存する。
また、ジェフリーの作品に見られない「ケルト起源」名称が
初期作品、『列王史』で偉大な戦士。私怨で魔女や巨人を虐殺する際は嘲笑した。
戦争で主導的役割を果たす一方、後のロマンスで「何もしない」王に成り果てる。
昼寝のため、寝室に引っ込んでしまうロマンス内アーサー。彼が、どれほど弱くて失策を犯したとしても「弱さで威厳が損なわれることは一度もなかった」とされる。
権威と栄光も無傷で残された。その部分は、アーサーに救いだったかもしれない。
円卓と聖杯
1210年頃まで、欧州アーサー王ロマンスは韻文で表現されていた。それ以降、散文で物語を書く形に変わる。13世紀もっとも重要な散文作品は『流布本サイクル(ランスロ=聖杯サイクル)』。これは13世紀後半、中世フランス語の物語である。
「聖杯物語」、「メルラン物語」、「ランスロ本伝」、「聖杯の探求」、「アルテュの死」、これらの作品群を総括しアーサー王伝説全体が一貫した物語になっている。
物語でモードレッドが、アーサーと実姉の近親相姦によって生まれた子供に変化。
クレティアン内で言及されたキャメロットが、アーサーの宮廷名として定着した。
『流布本サイクル』の後、『後期流布本サイクル』が書かれた。聖杯探求に、物語の本筋をシフトするため「メルラン続伝」が置かれる。ランスロットとグィネヴィアの不義で物語の重要度は下がる。それでも、アーサー王の埋没化が止まることはない。
アーサーは、フランス語の散文作品群でマイナー登場人物扱いに降格されている。
中世の、アーサー王物語群と「ロマンス的アーサー像」発展は、トマス・マロリー『アーサー王の死』で頂点を迎えた。これも、英語で書かれたアーサー王伝説全体を一つにまとめた作品群だ。マロリーは、それ以前のロマンス『流布本サイクル』を、アーサー王物語を権威ある作品にする意図だと評価し、自身で新たに構築している。
上記、説明文はWikipediaによる修正。
「少年。強さとは、一体何だと思うかね? 考えがあれば聴かせてくれないか」
アーサー王は、剣を構えた少年と視線をあわせると神妙な調子で語りはじめる。
「強さとは、絶対的な力で個人の能力と考えていました。つい
興奮した少年は、勢いづいたままの状況で懸命に語りはじめた。
「ほぅ」
少しだけ、アーサー王の片眉だけが動くと形良い口角が歪められる。
「でも、それは間違いなんですよね。強さは、全体のバランスであり総合力なんだ」
少年は、自らを納得させるためと奮い立たせ何度も呟いて確認している状況だ。
「ふむ。その一面、然りだな」
少年の納得した断言に自身の顎鬚を撫でながら、少し笑みを浮かべている王者。
「でも、それだけじゃないさ。最後に必要な精神力。絶対に諦めないことなんだ」
その瞬間、少年の双眸には、それまで感じられなかった強い意志が宿る。
「そうさなぁ。大方の状況は、その判断で良かろうさ」
ニヤリと、ニヒルな少年じみた笑みを口角に浮かべる壮年のアーサー王。
「はい! ありがとうございました、
全身全霊で真心を込め、深く頭を下げて感謝する少年。
「では、訓練は無事に終了だ。続けて、現在の状況について少しだけ語ろうかの」
いつの世も、歴史は反復される。それは遥か古の時代から続く真理とされている。
この
アーサー王が治める想区、その内部に変化が起こる兆候は以前からあったらしい。
妻である王妃が配下の騎士と通じていた件然り、信頼していた配下の老魔法使いが
前妻の子と通じて謀反を起こそうと動いた件についても然りだ。何ら対策もできずにキャメロット城を放逐されて周囲を囲まれていた状況。アーサーだけが帯刀可能な、聖剣エクスカリバーを奪取するため配置された、謀反の子が放った
本来アーサー王は、孤独なまま死すべき宿命を背負っていたはずの人間だった。
名もなき少年の登場。アーサー王の
「騎士道のあらゆる理念を体現する九人の英雄」
中世における、九偉人の一人に選ばれたアーサー。彼の生涯は、騎士道を熱望する人々にとって学ぶべき理想と考えられたのだろう。九偉人の一人として、アーサーのイメージは文学作品により知られるようになり、続いて彫刻家や画家によって頻繁に題材にされる。特にイギリスで、ライバルであるフランスが国の象徴にカール大帝を奉りあげた状況に対抗する様式美だ。アーサー王を、自国の象徴英雄として奉った。
エドワード3世が、円卓の騎士に倣いガーター騎士団を設立したのは有名である。
しかし、最も影響を受けて利用した人物はテューダー朝を開いたヘンリー7世だ。
ウェールズ出身の彼は、王位正当化のためアーサー王を利用し王太子にアーサーと名付けた。ただしアーサーは早世、実弟がヘンリー8世で即位したためアーサー王が誕生することはない。アーサーは、現代まで行動規範として度々、利用されている。
アーサーの中世的騎士道理念とキリスト教的理想を推進するため、1930年代にイギリスで「円卓の騎士友情騎士団」が結成された。アメリカも数十万の少年少女が「アーサー王の騎士」など若者向けグループに参加して、そこではアーサーの存在と残した業績が心身の規範行動として現代も奨励されている一身伝の好人物でもある。
現代文化におけるアーサー王の広がりは、伝説上の業績を遙かに超えている。
アーサー王伝説に関した名前は、品物、建物、場所などにも頻繁に用いられた。
円卓の騎士は、アーサー王物語においてアーサー王に仕えたとされる騎士たち。
※円卓の騎士に関する、もっとも古い記述はウァースの著作にみられる。
その名は、キャメロットの城にある円卓を囲んだことに由来する。上座下座のない円卓が用いられたのは、卓を囲む者すべてが対等であるとの考え方に基づいている。
新たな円卓の騎士は空席ができたときにのみ迎えられる。その者は以前の騎士より勇気と武勲を示す必要があり示せない場合は、魔術師マーリンの魔法で弾かれた。
聖杯伝説の一形態で、円卓はイエス・キリストと12人の使徒を模して13の席があったとされる。「キリスト」に対応するアーサーが一つの席に座り、残りの席には一人ずつ騎士たちが座っていた。13番目の席のみ例外的に誰も座っていなかった。
なぜなら13番目の席は、キリストを裏切るイスカリオテのユダ席とされた理由。
魔術師マーリンが席に呪いをかけていたため、座る者は呪いに冒されるとされた。
席は「危険な座」と呼ばれ、新王が足を乗せると叫び声を上げる、アイルランド産ファルの石からできているとされる。しかし円卓の騎士一員で、ランスロットの息子ガラハッドが呪いを恐れずに席に座り、呪いに打ち勝つと12番目の騎士になった。
彼が聖杯を手にして、天に召された後は再び空席と戻っている。
上記、説明文はWikipediaによる修正。
「さて、少年。
そろそろ、戯れの時間も終わりを迎えると判断したアーサーが話しはじめた。
「この
少しだけ口端に笑みを浮かべて、愛弟子である少年の成長を喜んでいるらしい。
「我が剣筋の正当後継者が現れるなどと、想像すらしておらんかったが少年の身体と魂まで深く影響を刻めたイレギュラーな成果と、運命の到来には感謝しとるからの」
少しだけ、考える顔つきをして最後に放つ言葉で少年は突然、浮遊感に包まれる。
「さて、少年の仲間たちがキャメロットまで近づいとるの。魔法陣を解除しようか」
しばし周囲風景が横揺れし、気がづけば城塞前に立ち尽くす少年だった。周囲に、アーサー王が存在した痕跡は何一つない。少し遠方から彼を呼ぶ声だけが聴こえた。
「あんた、どこ行ってたのよ!」
近づく少女の姿と声。いつもと同じ、少し怒り口調のシェインらしい。
隣には、未だ顔色が優れないレイナと両肩を支えながら歩くタオも見える。
「どうかしたの? ここの城内で何かあったのかしら」
レイナは少しだけ心配口調だが、語る唇は赤紫で顔色も赤みがかっている。
「こいつよりも
タオもぶっきらぼうながら、レイナを心配している様子だ。
「何から、
現在の状況が、何一つ理解できず説明に困るのは少年も同じだった。
「あんた、何いってるんだか全然わかんないわよ! バッカじゃない?」
口を尖らせて悪態をつくのは当たり前だけれど、シェインだ。
四人の争いが果てしなく続く間に、城塞内部で突如眩い巨大な光と爆発音があがり全員で、その光源になるだろう巨大なキャメロット城を遠景から見つめていた。
やがて爆発音が途絶えると、次第に光源も消えたが同時に驚愕することになる。
キャメロット城、その影も形も存在しない空間。他に、何かができたはずもない。
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