グリムノーツ奇譚『アーサー王』~伝説を受け継いだ少年

神無月ナナメ

Ⅰ.アーサー王と少年の邂逅

『グリムノーツ』

 その内部、想区と呼ばれている物語の世界。ひとつひとつが舞台であり社会だ。

 舞台それぞれが、世界の創作者ストーリーテラーに創作された物語ベースの想区とされている。


 通常、人間は生まれながら与えられた『運命の書』に記された通りの人生を歩む。

 暴走したカオステラーと呼ばれる創作者ストーリーテラーが描く、悪夢同様の世界であれ疑問を抱くことも一切ないままに生活する住民たち――但し『空白の書』所持者を除く。 


 生きる目的――何ら示されない『空白の書』を手に、想区に生まれ出た理由を求め創作者ストーリーテラーから隔離された少年。どのような人生を歩み、己が運命を切り拓くか――


 生まれ想区がシンデレラ世界――主人公である幼馴染に淡い想いを寄せた過去――

独学での剣術会得。お人好しな一面も秘めた「名前のない」少年は努力家であり――

 偶然遭遇した運命を導く存在でもある『調律の巫女』少女レイナを助けた結果――

己が生きる目的と、自己選択で歩む未来を見出して世界を知るために動きはじめた。


 カオステラーからストーリーテラーに「想区」修復活動――ともに巡る仲間たち。

 桃太郎の相棒だったタオ、彼の妹分シェインを含めて四人。ともに動く仲間チームメイト――



 通過予定、大きな問題も発生しなかった想区を後に新しく進む沈黙の霧。レイナが突如変調を来したためタオとシェインが傍に居残り、主人公だけが独断しての先行。

 霧の世界を跨いで辿りついた、巨大な中世欧州城郭を内包する広域城塞都市想区。


 想区の王であり主役ヒーロー。彼が、周囲を囲まれ身動きできない状態を見捨てておけず少年側の強制介入と助太刀。数百の名もなき雑兵ヴィランを傷一つ負うこともなく倒し――

 そして少年は、新たな運命さだめに繋がる「王」と出遭い――王の魂は孤独――物語世界その生涯が逸話として綴られる偉大な存在であり「想区」内部で絶対的な君臨者だ。


 人類史上、実在したかもしれない最強の王者で勇者ヒーロー。それは、一体誰だろう!?

 過去から現在まで、史実における英雄譚。物語の主人公として語られ続けて何度も新たな導き手でもある作者ストーリーテラーにより設定とアイテムと状況が加えられた登場人物キャラクター


 伝説的な二次創作品群の総数――その元祖にして歴史的英雄「アーサー王」――

 今回、彼我人物に焦点スポットを当てグリムノーツ世界観で表現したいと考えているが、唐突な形で開始された、この物語。紡ぎ手である、お前自身は一体誰なんだって?


 神視点で「グリムノーツ」世界を見通す現象。「世界に影響を一切与えられない」干渉自体不可能で空気染みた「在るだけの」存在。先に要約だけでも記しておこう。


 読者誰一人、特に気にする必要もない存在である。ただのちりでありあくただろうか。

 あくまでも物語を導いて動かす指標になる偉大な人物、主人公は別に存在し――

 グリムノーツは少年が主人公。あくまでも本作品内は、アーサー王が主役ヒーローだ――



 児童が読む物語が童話だ。主に、親など保護者が幼年期に読み聞かせる子ども向け民話、伝説、神話、寓話、創作された物語。創作童話の多くは幼年、児童向け短篇。


目的

 幼年期児童に、言葉や文字を学ばせる。美的感覚、善悪判断の情操教育。想像力・価値観を育てたり、親子関係の形成と円滑コミュニケーションを行う手段でもある。


傾向

 昔話や童話は子ども自身が興味を感じる内容、教育的側面の傾向があるとされた。

 文学的現代童話は、これに対するアンチテーゼで多彩傾向が示されるようになる。

 子どもたち自身に容易な想像が可能であり、好感を覚える主人公が登場する物語。


 そのため、動物など擬人化された存在で著す状況が見られた。行動に明確な結果が伴う教訓にも繋がる。善行に褒美、悪行に罰の因果応報的な展開や結末が示される。

 子どもが飽きる、長い時間がかかる物語でなく詩的・象徴的な作品群が多かった。


残酷性

 昔の童話は悪者行為それに対する報いや制裁上、残酷内容も少なからず存在する。

『白雪姫』で、姫を苦しめ続けた継母(グリム初版で実母)は真っ赤に焼けた鉄の靴を無理やり履かされて、死ぬまで踊らされる処罰を象徴的な結末として著されている。


 日本昔話『かちかち山』狸は、おばあさんを殺して汁に入れる。「狸汁」と称しておじいさんに食べさせる展開を子どもに見せる段階では描写変更する配慮もされた。


 国内、幼児向けに出版される絵本多くは「お子様向け」残酷な場面を削る、または「修正・改変」されている物語が過去は大半だった。ただ近年、残酷性だけに焦点を当てずに作品全体を通して考えるべきと、原典に近い形式で出版される傾向もある。


大人向け作品

 いわゆる童話的な体裁で、想定読者対象が大人に向いている作品も数多存在する。

 寓話ジャンル、『星の王子さま』『チーズはどこへ消えた』なども含まれている。

 上記説明文は、Wikipediaによる修正。


 本来、童話世界を舞台にした想区。アーサー王は、童話でない伝説分類の存在。

 さてアーサー王、彼我の人物は史実か? 単なる空想上の産物で英雄なのか!?



「そこの少年、助力に感謝する。しかし君は元来から、剣士の生まれなのかね?」

 立派過ぎる面持、評しても恥じない身形の壮年男性。腰鞘に、法具付長剣を納めて声を発した。重厚な金属製、鈍く輝く甲冑と巨大兜で被う長躯に顎鬚を伸ばす面相で厳しい視線と表情。正しき王者の風格以外に表現できない圧倒的な存在感オーラを感じた。


いえ、我流だけで剣術を鍛えました。誰かに剣筋を教えられた経験もありません」

 名を持たない少年は、萎縮しながら厳格な問いかけに機敏な即応している。


「非常に引き締まった身体。細いが鍛え抜いた両腕。謙遜するほどでもなかろうよ」

 少年の応えに耳も貸さず、その全身を眺めてヴァリトンヴォイスが発せられた。


「我は、アーサー王なり。少年に助けられた恩義、生涯忘れないだろう」

 少年に、王者の佇まいで低音声と目礼だけ返した壮年の男。真の、王者の風格だ。

 彼我の英雄でもある豪快な男は、「史上最強の王」にして伝説的な勇者ヒーローだった。


 アーサー王は、5世紀後半から6世紀初頭の伝説的な勇者で高名なブリトン君主。

 中世史書、ロマンス物語多数登場。アーサー王は、6世紀にローマン・ケルト民族ブリトン人を率いサクソン人侵攻を撃退した代表者とされる。一般的に、アーサー王物語として知られる内容、その大半は民間伝承や創作による寓話。アーサー王自身、実在人物か否かを探る検証作業中で現在も歴史家が議論を繰り広げる欧州英雄王だ。


 史実証明記述として、『カンブリア年代記』『ブリトン人の歴史』およびギルダス『ブリタニアの略奪と征服』文書内部に断片的な形式で、その名前が残されている。

 また、アーサーという名前は『ア・ゴドジン』など中世ウェールズ詩に見られる。


 伝説的な王名でアーサーは、12世紀のジェフリー・オブ・モンマスによる歴史書『ブリタニア列王史』発端で人気を博した。国境を越えて後世まで拡散されている。


 ジェフリー以前、ウェールズやブルターニュ地方伝承でアーサー王に関する内容が存在している。伝承で、超自然的な存在や他国からブリタニアを守る戦士。あるいはウェールズ人の常世と称されるアンヌンと関係を持つ、魔法的人物として描かれる。


 1138年『列王史』作者とされるジェフリー。伝承を利用して彼が脚色創作した部分が大半、過去の地方伝承をまとめた内容。史実か、現在も解明されない状況だ。


 アーサー王伝説は、作品により登場人物、出来事、テーマが異なる。そのために、原典作品が存在しない。ジェフリー『列王史』が、後発作の発端だとされている。

 ジェフリーのアーサーはサクソン撃退、ブリテン、アイルランド、アイスランド、ノルウェー、ガリア(現フランス)を含めて、広域の欧州大帝国を建立した人物だ。


 アーサー王の父ユーサー・ペンドラゴン、魔法使いマーリン、王妃グィネヴィア、聖剣エクスカリバー、ティンタジェル城、モードレッド相手にカムランの最終決戦、アーサー王の死とアヴァロンの船出。現在アーサー王物語になくてはならない要素、人気エピソードの大半が、ジェフリーの『列王史』時点で物語に構成されている。


 12世紀フランス詩人クレティアン・ド・トロワは、ランスロットと聖杯を追加。

 アーサー王物語を、中世騎士道物語の題材として定着させた。フランス恋物語ロマンスで、アーサー王より円卓の騎士を含めた登場人物に中心が移る内容として変容される。


 アーサー王物語は中世欧州広範囲で流行したが、その後は数世紀を経ずに廃れた。

 しかし、19世紀人気復活。21世紀現在、文学としてのみならず、演劇、映画、テレビドラマ、漫画、ビデオゲームなど数多のメディアに生き続けている素材だ。


 アーサー王伝説、その史実性は学者を主体に、より長期に亘って議論されてきた。

 アーサーの言及は、ラテン語テキスト内に見られている。『ブリトン人の歴史』と『カンブリア年代記』記述を根拠に、アーサーは実在し5世紀後半から6世紀はじめアングロサクソン人と戦うローマン・ケルト側の指導者だったと推測する説もある。


 アーサー王その伝説は、配下12人「円卓の騎士たち」と後世まで語り継がれた。


 数多バリエーションを持つが、理想のキリスト教君主として描かれる存在になる。

 ロマン主義背景が作品モチーフ的に好まれ、現代までメディア向け題材とされる。

 物語細部に伴う経緯まで含め「円卓の騎士」その総数も、次第に増加されていく。


 アーサー王の伝説は、聖杯伝説などと次第に結びつくことで急展開された物語だ。

 ユーサー・ペンドラゴンの息子アーサー、「これを引き抜く者は王となるだろう」台座に書かれ刺さる剣を引き抜くと、魔術師マーリンの助けで名君として成長する。


 その過程、湖底で聖剣エクスカリバーを入手。キャメロット城を拠点に巨人退治。

 ローマ遠征と冒険を重ねて、フランスやイタリアなど支配する巨大王国に拡がる。


 グィネヴィア妃を迎え、アーサーは諸侯騎士たちを臣下に迎え円卓に席を与える。

 後に円卓の騎士団結成に繋がるもランスロットと妃の不義により、やがては崩壊。

 対ランスロット戦に出兵のため、国内は不義の子モルドレッドを摂政に任命する。

 モルトレッドが謀反を起こし王妃グィネヴィアを手にしようと動くが拒絶された。


 妃はロンドン塔に籠城し、モルドレッドは軍を率いて取り囲む。状況を聞き軍勢を率いて舞い戻るアーサー。カムランの戦いでモルドレッドと一騎討ち勝負に繋がる。

 槍で突き、最後は討ち取り勝利するが相応の深手を負うことになったアーサー王。


 その後ベディヴィアに指示し、湖水面から現れた大きな手に聖剣エクスカリバーを返却して小船で立ち去る。その後、アヴァロン島に戦傷を癒すため訪れたとされる。

 アーサー王は、アレクサンドロス三世と湖の乙女の直系血脈で子孫だとされた――

 上記は、すべてWikipedia原文の修正です。



「アーサー王」想区、あまりに不可解と名もなき主人公は激しい痛みに頭を抱える。

 沈黙の霧を抜け想区に到着。突如、絶対的な王であるアーサーが夜半単身行動中。

 ただの雑兵ヴィランであれ、英雄が襲われる状況。それ自体が理解不能でありストーリーテラーからカオステラー化した原因。それが現在、一切見当たらない状況も謎だ。


 王に、確認するも言葉は戻らない。何気なく発した問いの返答、既に異質だった。


「少年。尋ねたい質問は数あるだろう。しかし、まずは己が力を示してもらおうか」

 ニヤリと歪む表情と同時、腰鞘の聖剣を抜き放つと振りかざしたままで待機する。

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