南雲・エンタメ・実験場
南雲麗
週刊勇者タカシと『あんこくのじゃきょうだん』
おれはタカシ。数年前、学校帰りにいきなり異世界メキシコに召喚され、かってに勇者にされてしまった。仕方ないのでおれは信頼できる勇敢な戦士サボタイ、とにかく強くて振る舞いもすごい拳闘士のバーフバリ、魔法も使える僧侶のセイメーとともにはるか南、魔王城へおもむき、世界を救ってやった。
「おのれタカシ。だがいつか我は復活する。その時こそメキシコはただの砂漠となるのだ」
だが魔王は強く、封印しかできなかった。このままではいつか魔王は復活するし、魔王をあがめる連中も多くのこっている。そこでおれは考えに考え、こうすることにした。
「特典でおれを七日に一回だけこっちに呼んでくれ。おまえたちを魔王に対抗できるようにしてやる。後民からのうったえを一つだけ聞いてやる」
「ありがたや、ありがたや」
この世界のれんちゅうは魔王とは戦えないぐらいにこしぬけだが、勇者には素直だ。だからおれはもう少しだけ戦ってやることにした。
「暗黒の邪教団?」
「はい。『あんこくのじゃきょうだん』です。北の王から連絡があり、最近勢力を拡大しているとのこと」
「軍隊は強くしてるはずだが」
「いくつかのモンスターを抱えているそうです。勇者タカシ自らの来訪を希望されています」
「……北の軍団はきたえなおしだな。分かった、行こう。距離は」
「ウンマ(元の世界でいう馬だ)で休まず、十五昼夜。休むなら早駆けで二十、ですな」
「おれは特典のおかげでこっちで何日経ってもむこうに戻れば元の時間だ。いこう」
「お願いします」
そういうことになった。
おれはひとまずサボタイだけを連れ、北の地をめざして山なみの道を走っていた。北の空は暗く、どこかみるのが嫌になる気持ちにされていた。
「サボタイ。南へ向かったときに比べて心細いな」
「なにを言うか。ワシがいれば百人力よ。それよりもこの昼で山を抜けよう」
「ああ……」
「おっと、そうは行くか。有り金を置いていけ。さもなくば死ね」
あからさまな山賊が三十人ほど。おれ達の行く道を阻む。メキシコではこうやってデスペラードな奴らが徒党を組むのだ。だが。
「ここはワシに任せておけ」
「なんだコイツは!」
「お前たちはここでタコスのようにまるまって罪をすすぐのだ」
「グワーッ!」
「おゆるし!」
「命だけは! 命だけは!」
勇敢なサボタイは一人で三十人に突っ込むと、あっという間に全員をソードで殴りつけ、す巻きにしてしまう。おれ達は道を急ぐので、そのまま置いていくことにした。運がよければ生きのびる。
また幾つかの昼夜を過ぎた後。コヨーテがむこうでなく草原で、おれはタイマンの決闘を引き受けさせられていた。道中どうしてもという王の頼みで城によったら、いつの間にかこうなったのだ。
「どうした勇者よ。やはりお前は仲間がいないとこしぬけか」
「ヌゥーッ!」
「どうしたどうした! ……え」
突然敵の戦士が横倒しになる。空気に殴られたように。
「勇者タカシ。おまえの剣は不埒を倒すためにあるのではない……」
その声は崖の上。髭面で小太り、両拳に鎖を巻いた男がいた。
「タカシを阻むものは全てこのバーフバリの拳が防ぐ」
遅れてきたバーフバリは軽やかに舞い降り、タイマンをぶち壊しにされた怒れる軍隊のれんちゅうを殴り倒す。
「バーフバリ、ワシもやるぞ。タカシはワシらが守るのだ」
「逃げろ、逃げろーっ!」
途中からサボタイも入り、たちまち軍隊は逃げ帰った。おれ達は追われても困る。さっさと北を目指すことにした。後日、この国は滅んだと聞かされた。
「何者をも穿つこの拳も、敵が巨大では膝にすら届かぬ」
「ワシの剣でも長さが足りん」
「魔を断つ刀も、果たしてつうじるのか……」
北の国が近付き、最後の難所である渓谷で。おれ達は最大の危機を迎えていた。敵は謎めいた巨人だ。こちらが見えているのかわからないが、遠距離のこうげきは全て意味をなさなかった。このままではじりひんになり、やがてしぬ。しねばおれは地面にうめられ、なんの意味もなくなってしまう。ただのこしぬけだ。その時だった。
「破ぁッ!!!」
渓谷いったいに声が響き、巨人が音もなく消えていく。なにが起きたかと三人で周囲を見回していると、前方にとんでもないイケメンが立っていた。涼しい顔をして、公家のような服を着ている。
「勇者殿、遅れ申した。セイメー、只今」
「おまえの喝で消えた、ということは」
「アレはまやかしですな。『暗黒の邪教団』とやら、油断せぬほうがよろしいかと」
「もしや、魔の係累か……。だとすれば。ワシが切り払わねば」
「魔王の復活が目的であるならば、我が拳が身をもって勇者を守り、よこしまな企みを阻む」
そうしておれたちは、ついに北の国に到着した。王の歓待もそこそこに、奴らの支配している地域をめざす。メキシコはしゃくねつなので北のちいきでも寒くはない。むしろ、おれにとっては快適だった。だが、『あんこくのじゃきょうだん』からの攻撃は一切なかった。
おれ達はいよいよ気味悪くなったが、そう思ったころには遅く、本山にたどり着いてしまっていた。入口で迷っていると、頭に耳をつけたれんちゅうが出てきてこういった。
「勇者タカシ殿、入るといいのじゃ。我々に敵意はないのじゃ」
「のじゃ!」
「のじゃー!」
老人も子どももこんな事をいうのでおれは少し考えた。そして気づいた。ああ、そういうことだったか。
「三人とも、おれは無事に帰ってくるからここで待て」
「勇者よ。せめてこのバーフバリだけでも」
「ワシが代わるぞ」
「……否。ここは勇者殿に行っていただきましょう」
「セイメー、貴様!」
「私の予感が正しければ、勇者殿が最適でございますゆえ」
セイメーはかしこいやつだ。恐らく、わかりかけてきたのだろう。おれは一人先を行くことにした。
長い長い殺風景なろうかを歩き終えると、そこは大きな大きな広間だった。一面びっしりと人が詰め込まれ、みなが出迎えのものと同じ耳を付けていた。
「のじゃ!」
「のじゃのじゃ!」
「のーじゃー!」
「のじゃ! のじゃ! のじゃるふだぐ……すみません! のじゃ!」
時々なにか違うようなもんくが聞こえるが、やはり予想はてきちゅうした。
「なあ、ここはもしかして。『暗黒のじゃ教団』ではないか?」
話を聞けば、まさにそのとおりだった。魔王の係累に無害なタイプのケモミミのじゃロリ神がいたらしく、それを信奉していたれんちゅうがこうして集まったのだという。
だが北の王国は魔王崇拝と断じてこらしめにかかり、団結力の前にやぶれた。その時に名乗ったのが『暗黒のじゃ教団』。つまり、誰かがどこかで伝言ゲームを間違えたのだ。
「伝令も北の王も怠慢ですな。無害なら排除する必要もないでしょう」
「うむ。タカシの真の仲間としてワシは信じる……のじゃ」
「バーフバリも拳に誓って危害を加えぬ……のじゃ」
「……二人はどうしたんだ」
「門徒にだいぶ歓待されておりましたので、移ったと、思う……のじゃ」
「セイメー……。おまえもか……」
こうして、今回の件はらくちゃくとなった。かれらは税をおさめる代わりに、無害な団体として国の名簿にのることとなったらしい。おれも無闇に戦うことなくことがすみ、ホッとしていた。
「のじゃ!」
「のじゃあ!」
「……のじゃ」
「三人とも、後日再たんれんで」
おしまい
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