顔㉑
ぺちっ。
ぺちっ。
「友子_____ばか……ばかだよ、アンタ」
首のない肉の人形が、アタシと友子をその輪切りにされたところからじっとこっちを見て馬鹿にして笑ってる気がする。
狂ってる。
集めてつなげて。
つぎはぎらだけの肉人形。
友子は、なんでこんなバカげたことを思いついたんだろう?
いくら寂しくて辛いからって、こんなの本当に友子だけで考えた事のなの?
バタン。
友子のキタナイ顔を呆然と眺めていた正面で風呂場の戸が開く。
「ぁ」
包帯男。
アタシを殺そうとしてここまで来た_____?
どうやって?
アタシがここに来るなんて何故分かった?
つけられて?
違う。
この家の押し入れ、風呂場、ドライアイスのようなもので作られた冷蔵庫みたいなもの。
いくら検索すれば作り方がわかるとしても、こんなの友子一人で作れるの?
ぶつん。
「ぁ」
胸が熱い。
「グスッ、ゲホツ! ケホッツ!」
鼻血を噴いた顔が、咳き込んで鼻から赤い風船を作る。
包帯男の口の辺りがもぞりとする。
「友子になに______ひゅっ、ケホッツ! ヒュッユ!?」
息が出来ない。
ナニこれ?
苦しぃ……!
胸を刺された……だから苦しい?
もう座ってもいられなくて、アタシは友子の上からタイルの床に倒れ込む。
「肺に穴が開いたのでしょう」
開け放たれた風呂場の戸の縁に立ちこちらを見下す包帯男の口元がモゾリと蠢きカツンと足を踏み出す。
「今、貴女の肺には血液が流れ込み徐々に圧迫されやがて呼吸が出来なくなるでしょう」
優しいテノールが、泣きじゃくる友子を介抱しながら言う。
「はっ、かふっ……? 息? けほっ! けほっ!」
息が出来ない。
何度大きく息をしても、全然息が吸えない……けほっ。
息が。
息が。
くるしぃ。
「おまえっ、ともこ ない したっ けほっ! カハッ!」
包帯男の手が、鼻血と涙でべたべたの友子の顔を愛おしいそうに拭く。
大きく息を吸った。
血の味と、臭いがした。
目の前が真っ暗になった。
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わたくしは、その背を押しただけでございます。
俯くわたくしの作品は、呼吸を止めた少女を見つめその頬に触れまるで人形のように制止しております。
やはり、最後の最後で貴女は_____。
「ふふふ……」
おや?
「かわいい……ともこちゃん」
貴女は、わたくしをみあげてほほ笑みます。
「これでやっと完成するよ! 私のトモダチ!」
その幸福に満ちた瞳はもう幸福意外なにもうつしません。
はしゃぐ貴女はわたくしの脇を横切りバスルームを抜けると、何処からかしなるノコギリを持ち出し少女の首にあてがいました。
哀れな貴女。
あの日、雨の中で出会った孤独な少女。
暗い暗いその小さな瞳は、かつて失った孤独の青と重なりわたくしの胸を焦がし貫きました。
貴女が欲しい。
貴女を幸せにして差し上げたい。
貴女を取り巻く環境とその不運を知れば知るほど、こみ上げるこの思いをわたくしは止めることが出来ませんでした。
胴。
腕。
脚。
貴女は理想のパーツを集め、トモダチを作ります。
幸せになるために。
だからこそ、わたくしはその少女の事が気がかりでした。
貴女に孤独と悲しみを与えたその少女が、貴女を許してしまう事が、貴女を暗闇から連れ出してしまう事が。
しかし、わたくしの懸念は杞憂に終わったようです。
数時間かけて、貴女は少女の首を切り離し血まみれの顔をシャワーで流しタオルで拭き抱きしめました。
その顔は満ち足りて、抱きしめた顔の額にキスをする。
なんと美しい。
友子。
友子。
ああ、やはり貴女はわたくし最高傑作だ。
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