顔⑳

 殿城を友彦君を月島さんを攫って、押し入れの中にけんちーを入れて手に足にあんな……あんな事を?



 「ね"? まって、まって!」


 「なぁに?」


 

 アタシは、背中をさする優しい手を振り切る!



 「ねぇ、どこにいるの?」


 「え?」


 「ほかの皆は何処に?」



 その、クーラーボックスにあるのが殿城の手だけなら、もしかしたらけんちーみたいに酷い事になっても生きてるんじゃ!



 「いないよ」



 そんな淡い期待は、可愛いソプラノの声で否定される。


 

 「殿城さん達は使っちゃったからもうないの」


 

 淡々とした声は謡う。



 「トモダチ、トモダチ、私のトモダチ♪


 いつも私の話を聞いてくれて、いつでもそばにいてくれる♪


 優しい顔♪


 きれいな黒髪♪


 すらりとした腕♪


 きれいな足♪


 ぽよんしたお腹♪


 集めてつなげて私のトモダチつくりましよう♪」


 嬉しそうに。


  楽しそうに。


 幸せそうに。



 謡ながらクーラーボックスから大事そうに抱えられるそれから、アタシは目が離せなかった。



 つぎはぎ。


 変色した肌。


 首のない体。

 

 赤い糸。


 縫われた肩口。


 

 それはまるで大きな肉の人形。



 「ぁ"あ"……あ"あ"あ"……」

 


 トモダチ。


   トモダチ。


 いつも私の話を聞いてくれて、いつでもそばにいてくれる。



 一番欲しい物。


 無いから。


  持ってないから。



 作ったの?



 殿城や友彦君や月島さんを切り裂いて、縫って繕って傍において。



「紹介するね! この子はわたしのトモダチ! まだ、顔がないんだけど______」


 まるで、大切な宝物でも見せるように頬を赤らめ自慢げに紹介する『トモダチ』だと。

 


 殺した。


 殺したんだ。




 自分の理想のトモダチを作るために。



 「ごめんなさい」


 「ともこちゃん?」



 只々泣くばかりのアタシに、ドモダチを抱いたアンタは首をかしげる。



 「アタシの……アタシの所為だ」



 泣かないでと伸ばす手をアタシは捕まえた。



 「もうやめよう! 止めて……友子ぉ……!」

 


 アタシは、もう何年も呼ばなかった親友の名前を口にした。



 友子。


 アタシと同じ名前。


 『おなじなまえだね!』


 幼稚園のお砂場で、独りぼっちだったアタシにそう言ったその優しい笑顔は今もそのままなのに。




 「ともこちゃん? 名前……同じだから、気持ち悪いからっていってたのに_____呼んでくれるの?」



 小さな目がじっとアタシをみて、震える声で聞く。



 「ごめっ、ごめん、呼ぶ、何度でも呼ぶ、だからもうやめて!」


 「ともこちゃん?」



 アタシは友子をぎゅっと強く抱きしめる。



 「許して……! もう、止めて……!」


 「ぇ? どうして泣いているの?」


 「酷い事してゴメン。 友子はなにも悪くない。 友子は関係ない。 友子、友子____アタシの友達」


 「ともこちゃん?」


 「だから_____もう、終わりにしよう」



 ガコッ!



 後ろ手でアタシはシャワーのホース掴んで、素早く友子の首に巻き付け思いっきり締め上げた!



 「かふっ!? ぁ"あ"? ど も"こ" じゃっ"つ"!?」


 ニキビで赤黒い顔がもっと赤黒く。


 小さな目が見開いて充血する。


 ぱくぱくする口から涎が垂れる。



 友子。


  友子。


 アタシの友達。


 アタシの所為で壊れちゃった可哀そうな子。



 ずるっ。



 クーラーボックスの『トモダチ』が、支えを無くして縁に寄りかかって頭の無い体でこっちを見てる。



 トモダチ。

  トモダチ。


 友子の作った肉の人形。


 

 馬鹿だな友子。


 こんな人形作ったって、喋りかけてなんてくれないのに。


 手だって握ってくれないのに。



 寂しかったんだよね?


 けどさ、友子のしたことは許せないし許されないよ。


 誰も。


  誰も。


 もし、警察に捕まって罪を償っても許してなんかくれない。


 一生。

 

  永遠に。



 ごめんね。


 だから、もう終わりにしよう。



 友子の顔が黒くなる。



 力も抜けて、鼻水と涎でキモチワルイ。



 「死ね。 死んじゃえ!」



 トモダチ。


  トモダチ。



 アタシの______ぶつ。



 「ぇ______?」



 熱い、お腹が熱い。


 ぶっつ!


  ぶっつ!


 「かふっ」 


 緩んだ手からシャワーのホースが抜け落ちて、友子の激しい咳と嗚咽が聞こえる。



 刺された。


 お腹。


 鋭い鉄の針?


 アイスピック?


 熱くて、アタシは体を丸めて蹲る。



 いだぃ……いだいよぉ……!



 『どうして! どうして!?』



 くぐもった声は遠くて、泣いて蹲る背中からブツブツと音を立てて貫かれる。



 熱い。


  熱い。


 背中が。


  肺が。



 泣いてる。


 可哀そうに。



 友子。


  友子。


 ごめんね。


 さみしいね。


 辛かったね。


 アタシの所為だね。



 けどね。


 アタシは、そんなイカレた肉人形になんて負けない!



 「あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"!!」


 蹲ってたアタシは、友子に飛び掛かって馬乗りになってその顔面を思い切り殴りつける!



 泣いても喚いても止めてやるもんか!


 何度も。


  何度も。



 そのニキビ面が変形して、涙と鼻血でぐちゃぐちゃになってもアタシは友達を殴り続けたけど次第に力が入らなくなって、寒くて、腕の動きが鈍い……。


 「グジュ……うぁああ、あああ!」


 友子が泣く。



 キモイ顔。


 ほんと、同じ名前なのにキタナイ泣き顔。

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