脚⑩
「…ホント? ほんとに?」
震えるか細い声は、じりっじりっと迫るようにボクに問う。
それは、まるですがるようだ。
さぞ、寂しかっただろう。
さぞ、心細かっただろう。
さぞ、辛かっただろう。
さそ、苦しかっただろう。
君の孤独。
君の悲しみ。
それは、君が悪いんじゃない。
けれど、そのどれを取っても君があの3人に何かしていいわけなどない。
何をしたか知らないが、これだけ長い間行方が知れないとなるともはや安否の確認が最優先になる。
ここは何としても彼女から情報を得なくてはならない。
「ああ、本当だ。 ボクは君の側にいよう」
そい言った刹那、笑みを浮かべていた彼女の表情が一瞬にして能面のように表情を無くす。
「無理だよ」
「え?」
「今までだれも私の側になんていてくれなかったもの…」
「そんな! ボクは!」
「いいの。 今はあの子が私の側にいるもの」
あの子。
その言葉にボクはがっくりと肩を落とす。
こんなモノもはやただの押し問答だ。
「…いいがげんにしろ…!」
思わず睨んだボクの眼光が、小さな目に映って歪む。
「月島さんの脚…きれい」
「は?」
不意に聞いた口は、もはや会話を成り立たせようとしていない。
微笑む彼女。
あぁ…恐らくもうまともではないのだ。
ならば、そんな相手に怒っても仕方がない…今は一刻も早く情報が欲しい…!
「…どうすれば教えてくれる? 教えてくれるならボクは君の望む通りにしよう…」
「ほんと? なんでもいいの?」
その言葉に、がらんどうの瞳に光が戻り嬉しそうに声が躍る。
「ああ…ボクに出来る事なら…」
席を立ち、もじもじしながらテーブルの向こうからこちらに回り込んだ彼女ははにかみながら俯く。
嬉しそうに。
照れくさそうに。
小さなコドモのように。
すっと、その太い指をそこにむける。
「ちょうだい」
?
「脚」
?
「やっぱり勉くんじゃあの子のイメージに合わなかったの」
なんだ?
何を言っている?
「今日は電話かかってこないんだね?」
そう言われて、ボクは思い出す。
爺やはボクに対して過保護だ。
門限を一秒でもすぎれば電話してくるし、拒否しても車を回して回収に来てしまう。
はっきり言って、毎回そんな事では捜査が一向に進まない…だからボクは今日この家を訪ねるに当たって爺やに言った。
『ケントの家に泊りに行く』
っと。
ケントの家とボクの家はビジネス面で交流がある…だから爺やも納得して送り出した…だから今日は彼女の言う通り電話なんぞかかっては来ない。
「二人がここに来たこと誰か知ってる?」
ボクとケントがここに来たことを知っている人物。
脳裏にその人物が浮かぶが、不意に喋ってはいけないと思い口を閉ざして首を振る。
「そう…良かった」
彼女はそういうと、いきなりずいっと距離を詰めレースの裾を突然掴んで上に引き上げた!
そうなると当然、ボクの足先から下着やら胸の下あたりまでが露わになる!
「な!? なに______」
さす。
あまりの事に声をあげるのが一歩遅れ、動きの固まった太ももに感じたじめっとした感触。
手だ。
彼女の汗ばんだ手が、さすさすと滑る!
「このラインから切れ込みをいれたら…綺麗に削げる…貰ったメス使ってみようかな?」
じめっとした手が、ボクの太ももから足の付け根の股関節に触れる!
「やっ、やめろっつ!!」
ドカッツ!!
ボクは、あまりの気色悪さに思わず足元に屈む彼女を蹴り飛ばしてしまった!
その衝撃で、彼女は仰向けにドスンと床に転がる。
しまったとは思ったが、この場合被害者はボクだ!
「な、なんだ?! 君は何をし…言っている!?」
聞き違いなんかじゃない!
彼女は言った『ちょうだい』っと、『脚』を、ボクの脚を触った!
脳裏に『まさか』と、『あり得ない』と思いながらも最悪のシナリオがよぎる。
「もう一度…もう一度聞く…彼らに何をした?」
むっくりと、まるで亡霊のように立ち上がった彼女はこれまで見たことがない程幸せそうに微笑む。
「ぽよんとしたお腹♪ すらりとした腕♪ …キレイな脚♪」
ボクはその場を飛びのき、この部屋と廊下を仕切る戸に手をかける…ケント…ケント…どうしよう…!
「月島さん?」
「く、来るな!!」
ボクは、後ろ手に指をかけていた戸の隙間を一気に引き後ろに一歩下がったが_____グリッ!
「!?」
足の裏に何か柔らかい物を踏み、バランスをボクはそのまま後ろに尻もちをつく!
「な、なに…?」
視界に入ったのは手…手!?
「ケント!!」
倒れている!
そこに倒れていたのはケントだ!
「ケント! ケントぉおお!!」
ボクは懸命にケントをゆすったが、ピクリとも動かない!
「ぁ、ちゃんと効いてたんだね…月島さんがぴんぴんしてるから紅茶に入れた分量を間違えたかと思ったよ」
「こうちゃ…ぶんりょ…?」
紅茶…そう言えはケントは一気に飲んで…?
体中から一気に血の気が引く!
ミシッ。
ミシッ。
太い足が床を踏みながら、彼女がこちらに向かってくる…!
逃げなきゃ!
「ケント! ケント! 頼む! 起きてくれ!」
ボクはケント腕を引くが、駄目だ!
重すぎる!
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