胴⑥

 「壁をごらんなさい」


 包帯さんに言われて私は壁をみた…わぁ…!


 今が夜でランプの明かりも薄暗かったから気が付か無かったけど、このカフェの壁にはたくさんの人形がずらっと並んでいる!


 「全てビスクドールとカスタムドールなどになっております」


 「わぁ…キレイ…」


 一体一体違うドレス着て座る人形たちは、みんな金色の髪に青い目をしている。


 「ぁ…」


 その一体に私は目が留まった。


 「ドレスのリボンが…」


 私は、ランドセルの中からいつも持ち歩いているソーイングセットを取り出す。


 「…直してあげてもいい?」


 包帯さんに聞くと、少し考えたそぶりを見せたけど『いいですよ』と言ってくれて棚の上の方にあるお人形を取ってくれた。



 「ランプの灯りで見えますか?」


 「…ん、もう少し…」



 赤いドレスに赤い糸でほつれたリボンをつけ直す…出来た!


 「ほぉほぉ…上手いものですね」


 「…縫物…得意だから…」


 私はお人形の髪を撫でる。 


 お洋服治って良かったね…洋服を破けてるってすごく嫌な事だもんね…。



 「よければその子…差し上げましょうか?」


 「え?!」


 包帯さんが『お望みならかまいませんよ』って…でも!


 「こんなに高そうなもの…」


 「人形とは愛でられてこそその存在価値があります…それに、今の貴女様には傍にだれか必要でしょう? …人形で申しわけありませんが…」


 「そんな事…ありがとう!」


 「さ、雨もやんだようですし…近くまでお送りしましょう」



 私は包帯さんに連れられて家に帰った。



 ガチャ。

   パタン。



 「…ふふ…」


 玄関から台所まで一気に走った私は、台所の電気をつけてお人形をテーブルの上に乗せる。



 「可愛い…」


 赤いドレスに金色の髪に青い目…なんだか包帯さんの話に出てきた『お嬢様』みたい。


 「貴女にお名前つけなきゃ…」


 だけど…もう眠くて…お風呂…入らなきゃ、雨でべとべとだし…歯も磨かなきゃ…。


 私は、お風呂にはいって台所に敷きっぱなし布団にもぐる…いつもの天井がにじんでそのまま目を閉じた。




❖❖❖❖❖❖❖❖❖❖❖❖❖❖❖



 コンコン。

  コンコン。



 「は い…どちら様…!」


 朝。


 アパートのドアを開けたゆうちゃんは、引きつった顔をした。


 「おはよ! ゆうちゃん!」


 「………なにか用?」


 

 ゆうちゃんはこっちを見ないようにしながら低い声で言う。



 「今日、家に遊びに来ない? 見せたいものがあるの!」


 「…」


 「おねがい…もう、最後だから…これでもうゆうちゃんには近づかないから…」


 「わかった…これで最後だからね…」


 ゆうちゃんは『少しまって』と言って、一度ドアを閉めてからすぐに出てきた。


 「さっさとして」


 「うん、こっち」


 ゆうちゃんは、足早に階段をおりてすぐ傍の私の家に行く。


 最後…。


 お家にトモダチを呼ぶ。


 それは、一度でいいからやってみたかった事。


 あの可愛いお人形を見せたら、ゆうちゃんは何て言うだろう?


 可愛いって言ってくれるかな?



 「はやくして」


 「う、うん…!」


 緊張して鍵が上手く開けられなくて、もたもたしてたからゆうちゃんが怒ってる…でもきっとあのお人形をみれば…!


   

 ガチャン!


 はぁはぁ…やっと開いた!



 「どうぞ…」


 「…」


 そう言ったのに、ゆうちゃんは眉間に皺を寄せて動こうとしない…どうしたんだろう?


 「…ゆうちゃん?」


 「は、ああ…行けば…入ればいいんでしょ! すぐ、すぐに帰るんだから!」



 ゆうちゃんは、ずんずん中に入ってく。


 「あ、待って! ゆうちゃん!」


 「きゃああ?!?」


 バキッって、音がしてゆうちゃんが悲鳴を上げる!


 ああ、床はシロアリに喰われているから固い所を歩かないといけないのに…。


 床に穴をあけちゃったゆうちゃんは、『絶対靴を脱いでこの家に上がりたくない』っていうから今日だけ靴履いたままでもいいっよって事にしてやっと部屋に案内する。


 「ここがね、お爺ちゃんの部屋でそこがお婆ちゃんの仏壇で…」


 「なんでもいいから早くして! こんな所に居たくない!!」


 今にも泣き出しそうなゆうちゃん…どうしたんだろう?


 「で、此処なんだけど…ほら、見てあのお人形可愛いでしょう?」


 「………」


 やっと、お人形を見せる事が出来たけど何だかゆうちゃんの様子がおかしい。



 「…もう嫌…」


 「え?」


 「やっぱ、アンタって頭おかしいんだ…ともこの言ってた通りじゃん…」


 「ゆうちゃん…?」


 ゆうちゃん…こんなに震えて…どうして泣いてるんだろう?


 「大丈夫?」


 私は心配になってゆうちゃんの肩をとんってした。


 「きゃああああ!!!」


 ちょっと触っただけ。


 それだけなのに、ゆうちゃんは悲鳴をあげて飛びのいて台所のテーブルにぶつかって______ぁ。



 ガシャン!


 テーブルに座らせていたお人形が、ゆうちゃんが思いっきりぶつかったから床に落ちて!



 「ぁっ! お人形が!」


 私は落ちたお人形に駆け寄る…でも!


 ああダメ…!


 陶器でできたお人形は顔も割れて、服の中で腕も取れてぷらぷらしてる!

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