白四輪
美咲はお母さんの料理が好きです。美味しいからです。お母さんがいない日はお父さんが作ってくれるけど、お父さんはチャーハンと野さい炒めしか作れないです。でも、美味しいです。
お母さんは料理が上手いです。色んな料理を作ってくれます。美咲もお母さんみたいに料理が上手になりたいけど、お母さんは美咲には危ないというので、まだお皿をはこぶ料理しかしていません。
お母さんはれんしゅうしたらすぐ上手くなると言っていたので、美咲もれんしゅうしたら、お母さんみたいにステキな料理を作れるお母さんになれるんだと思います。
美咲はお母さんになったら、そうたろうとお母さんとお父さんと一緒にくらしたいです。
「栗と、サツマイモと、キノコ!」
「キノコの名前言えるかしら?」
「うーん……マイタケ!」
「他には?」
「これはぬるぬるのキノコで、こっちは太っちょキノコ、こっちは背高きのこでしょ! これはお母さんに似てるね!」
と、三代の問いに対して美咲が無邪気な笑顔でえのきを指さすので、康介は思わず噴き出した。
三代が睨んできているのが伝わる。
色白で細身。確かに似ているが、子供の発想力は大人のそれを何倍も上回っていた。
「栗はお隣さんからいただいたもので、サツマイモは裏のおじいちゃんからいただいたもの。今度一緒にお礼に行こうね、美咲」
「美咲、おうちから出てもいいの?」
「お母さんか康介さんと一緒ならね。颯太郎と二人っきりは駄目よ。いいわね?」
「わかった。約束する!」
「そうね、約束ね」
元気に頷く美咲に三代も穏やかにほほ笑んでいた。こんなに一般的な空間がこの二人にやってくるなど、誰も予想していなかっただろう。
美咲は外に出られるのが嬉しいのか力強く首を縦に振っていた。台所の外からは自分の名前を聞きつけたらしい颯太郎が輝くまなざしを二人に注いでいる。
「今日は栗ご飯よ、美咲。お手伝いしてくれるかしら?」
「サツマイモのてんぷらは? マイタケのてんぷらも」
「じゃあ、康介さんにサツマイモ洗ってきてって頼まなきゃ」
と、三代が言い終わるかのうちに、康介の腕の中に美咲が飛び込んでくる。
温かいその体を抱きとめると、黒目がちな大きな瞳が康介を見上げていた。
「おとうさん、あのね!」
「サツマイモでしょ。私も食べたいから、今から洗ってこようね」
「やったぁ!」
無邪気な笑みに圧倒されながら、康介がまだ土のついたサツマイモを新聞紙にくるんで持ち上げる。
生まれた時には死んでしまいそうで心配だったが、今ではそんなこと微塵も感じさせない。笑顔がまぶしい可愛らしい少女に成長していく。
今でもふとした仕草や、表情が三代にそっくりなところがあるから、数年もしないうちに美しい母と並ぶほどに成長してしまうのだろう。
親バカと言われても仕方がないかもしれないが、彼女はきっと素直に育つ。
勝手口から出ようとしていた康介に美咲が声をかけた。
「来年はおうちの庭でも採れるといいね、サツマイモ」
「そうだね」
彼女の目はもうずっと先を見ているようだった。
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