白二輪


 美咲はすごい発見をしました。それに、お庭がこんなに広いってことも知りませんでした。竹の林の後ろの方に池があるのを見つけたんです。水が少ないし、草がいっぱい浮いていたけど、キレイにすればお魚も泳げるってお母さんが言っていました。

 このおうちに引っ越してきてからお母さんがよく外に出ていて美咲はとても嬉しいです。今までお部屋で本を読んでいることが多かったけど、よくお庭の草むしりや、畑の草むしりをしてます。時々夢中になっちゃって、麦わらぼうしにちょうちょが付いてる時があります。

 お母さんが元気になってくれてよかったです。お父さんも嬉しそうなので嬉しいです。




 玄関から見たときも大きな木だと思っていたが、縁側から回ってみるとさらに大きなきであるということを思い知らされた。見上げるほどの大きな木だ。こんなに立派な芙蓉の木を見るのは彼も初めてだった。まだ芽吹いたばかりという風貌の若葉をまとった太い幹が太陽の方に体を伸ばしている。

 芙蓉の木に隠れるようにして古ぼけた社がある。立派な朱塗りの社殿と鳥居があったのだろうが、今は所々朱が剥げているばかりか、鳥居が前方にわずかに傾いている。どうやら手入れが必要なようだった。

 広い庭にポツリと所在なさげに置かれているところも、またなんとも古ぼけた印象を与える理由かもしれなかった。

 自分の妻、三代は面倒なことを避ける性であると認識していた康介は意外だった。このやしろの手入れも、面倒を見ることも彼女にとっては面倒事に相当すると思っていたのだが、どうやら三代の認識は違うらしい。

 本当に広い庭だ。端の方に小さな竹林も見えるが、その先までも敷地だと彼女が言っていた。なるほど、娘が喜びそうである。

 芙蓉の葉が揺れて、春風がやってきたことを告げる。あんなに葉を揺らした割に康介の顔に当たった風は優しく、室内に転がり込んだ。

 三代が気に入るのも分かる気がする。彼女の旧家に似ている。

 懐かしく思ったのか、幼い頃の自分と娘を重ね合わせたのか。どちらにせよ、引越しの荷解きを早急にしなければならない。この家の男手は自分だけである。

「おとうさーん!」

 と娘の声がした。

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