受信料徴収員 ★★★

 武の話を一通り聞くと「なるほど、そう言う事ですか。」と、男は思案げにそう応えた。


 男は蓮田 英明と名乗り、委託の徴収員だと身分証を見せた。


 「こちらの不手際で失礼いたしました、テレビの調子が悪いとか?でしたらお話を少し聞かせていただけませんか?私のほうから直接担当者に報告を上げれば、速やかな改善を図ることが出来るかもしれません。」


 蓮田は武から電波の受信不良の件を詳しく聞きたいと言ったのだ。


 武は蓮田を玄関先ではあるが家に入れて、暖かい茶を出した。見た目はアレだが関係者なら状況が好転するかもしれない、悪くない話だと相談する事にした。


 「六道(ロクドウ)さん(武の苗字)。私は徴収員に過ぎませんので、今すぐTVの映りをドウ、コウする事は出来ませんが、お話を係の者に話して調べる事は出来ると思います。」

 「開発が進んで様々なモノがコードレス化し電波の使用状況も変りましたからね。ただ、お話からすればほぼ季節限定の異常と言う事ですから、色々と調べないと難しいと思います。」


 先ほどとは打って変わったハキハキとした口調、武はその変り様にあっけにとられるものの、同時に頼もしさも感じる。


 「時間が掛かりますかね?やっぱり?」


 武は、チョット面倒くさいなとも思った。


 「ええ、申し訳在りませんが。」


 蓮田は、申し訳なさそう告げる。


 「ただし、お手間はあまり掛からないと思います。六道さんもお仕事でお忙しいでしょうし、休日や夜遅くお伺いするのもなんですから。」

 「恐縮なのですが、六道さんご自身に簡単な手伝いをお願いしたいのです。」


 「どうやって?」


 チョット困惑気味の武に、蓮田は笑って応えた。


 「なに、簡単なコトです。六道さんに調査の装置を郵送でお届けします。小さな装置ですから玄関の差込口にも十分入ります、印鑑も不要です。

 「受け取られたら説明書通りにTVに取り付けて頂ければ結構です。簡単な機械ですからご心配なさらず、いわゆる猿でも、、、失礼しました。」


 蓮田は馴れ馴れしくしゃべり過ぎたと口調を改める。


 「取り付けてからそうですね~、一週間ほど様子を見て下さい。」


 「それとデータ採取のため、取り付けてから毎日忘れづにウチの局を10分~15分程度視聴して下さい。」


 「忘れたら?」


 武は自分のものぐさを心配して質問する、蓮田は苦笑しながら答えた。


 「正確なデータ採取と短期での改善を図るなら毎日と言う事です、ま~3日に1時間以上の状態をデータ採取できれば、ひと月ほどで十分です、ご協力いただけますか?」


 それなら問題ない、武は一応毎日の視聴を努力すると約束して調査を承諾した。


 「他局も問題があるとのコトですが。取り合えづウチの原因の在る無しを先に調べましょう。」


 内容は確かに簡単だった。どうせ行き詰っていたのだし何もせづイライラするよりマシだ、何より調査に料金が掛から無いのが良い。


 「確認した状況は、同封のアンケート書類に記入して返信封筒に入れて出して頂ければ結構です。」


 説明の後、蓮田は立ち上がり。


「解らないことがあれば、ココに電話下されば私か係りの者が対応いたします、では六道さん、お手数ですがヨロシクお願いします。」


「後日、頃合いに改めてテレビの様子を含めてご協力謝礼にお伺い致します。」

「今後とも「皆様の放送局」をよろしくお願いいたします。」


 蓮田は深々と頭を下げたのち、立ち去った。


 玄関を閉めて居間に戻ろうとした時、突風が吹く音と揺れが部屋を襲った。


 武は驚いたが、それはすぐにピタリとやんだ。武は居間の窓を向け外の様子をうかがったが、晩秋の夜空は静かに星を讃え、天気の荒れる気配はない。

 一瞬星の前を何かが横切ったように見えた、蝙蝠か鳥か?冷えびえとした空気に武は横切ったナニカを目で追うこと無く、直ぐに窓を閉め撮り貯めた番組の確認と消化に戻った。


 

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