受信料徴収員 ★★

 季節は晩秋、夜空にはに宝石を模る星々が瞬いていた。


 玄関のベルが鳴る。思い当る節の無い訪問者に「誰だろう?」と少しイラつきながら武は居間を出て玄関に向かう。

 ドアを開けると、まず冷たい空気のが足元に忍びよって来た。

 武は思わず身震いし戸外に目を向けた、そして凍り付き言葉を失う。


 ソコには闇の中から玄関照明に浮かび上がるように何かが立っていた。


 それは己の痩身に、夜間の交通事故防止か?薄汚れいるせいか?原色のような黄色のローブか何かの様に身体をすっぽりと覆うくたびれた上着をまとい。照明のせいか、幾ばくかの枯れ枝のように髪が残った頭皮から覗く地肌は墓から蘇った死者のごとく土気色。頬はこけ、顔に掛けた色の着いたサングラス風の大きな眼鏡が「髑髏」眼窩を思わせる。

 そして「髑髏」口がカタカタと動いた。蚊の鳴くような声だが、腰の低い丁寧な言葉づかいで「受信料徴収員です」と告げ、受信料金の支払いを求めてきた。


 それを切っ掛けに、まるで魔法が解ける様に目の前の異形は「貧相な中年男性」に変わっていた。

 

 、、、、、、、、コレが色々と噂の、、、


 束の間にの恐怖と混乱の後、武の意識は現実として受け入れる事が出来る部分に反応を示した。

 今しがた目に飛び込んできた光景にについては、改めて男の身なりに「異形」の面影が残る事を認識し「ビビらせやがって!」とホッとしながら内心で毒づいた。

 噂で聞いていたがコレまで遭遇したコトは無かった。それは当たり前だ、「口座引落とし」でキッチリ収めている。

 しかも「こんなに営業向きなスタイルじゃないのか?」といぶかしんだ。知り合いの主婦から聞いた話では営業マンよろしく、それなりの時間帯に訪問し、結構な営業トークで揺さぶって来るらしい。

 恐怖から解放された安心と、ビビらされた憤りもあってか憤慨をこめた溜息が出る。

 大手通信会社の光回線契約時にも似たような目に会った。最近の放送や通信関係の大会社組織と言うのは一体どういう締まりのない構造になっているのだろう?


 相手の落ち度への怒り、納付者としての傲慢、録画が上手く言ってない事への苛立ち。それらが「異形」から一転した「貧相な中年」男に牙をむいた、武は暴言に近い嫌味を吐いた。

 

 「あの料金はちゃんと引落としで払ってるんですが、お宅ではそんな事も把握してないんですか?」

 「それから時々と言うか、季節で映りが悪くなるんですけど、外国の電波か何かですかね~?どっちでも構いませんが地デジだって映らなくなるんです。料金徴収してるだから無駄な事にコスト掛けないで、設備増やして電波状況改善するとか、その辺キッチリして欲しいんですけど!」


 目の前の男に言っても直接は無関係であろう。その認識はあったが当て付けるようになじりながら武は再び相手を見た。


 「髑髏」がこちらを覗き込でいた。


 武は息を飲み怖気づく。が、しかし


 「そ、それは、どうも、、、、ま、誠にすみません。」


 変わらず物腰の低く丁寧な口調。謝罪を述べ、「貧相な中年男」は頭を下げる。武は相手がとても哀れな存在にみえた。そして何度も心象を揺さぶらるに至って、もはや憤りも消し飛ぶ。

 武は自ら「場」を雰囲気を明るくしようと相手に取り繕った。


 「あ、いや、ま、その、ソコまでして頂かなくても。」


 「絶対に、、、そちらが原因と決まったわけでは無いので、、、。」


 「あ、その、こちらの方こそ、つい、、、苛立ってしまって。すみません、、、、。」


 気まずい沈黙が流れたが。数秒後には少し硬いながらも、お互いが和やかな笑みを浮かべていた。


 ぎこちないが、少しだけ打ち解けた雰囲気とった。

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