Pert.12 葛西先輩のカミングアウト
「ヒロシ君、やめなよ!」
草太が俺の腕をガシッと掴んだ。
「な、なにするんだ? 草太」
長身183㎝の草太に腕を掴まれたら、どう
「頼むから、冷静になってくれよ。葛西先輩を殴るよりも、今は真美ちゃんを捜す方が先決だよね」
――そう言われて、俺は我に返った。
恥かしいくらい興奮していたようだ。忽然と消えた真美のことが心配で我を忘れてしまった。あいつは俺が生まれた時からのツレなんだ、絶対に失う訳にはいかない。
「なあ、草太。深夜の警備員さんの所に行って警察を呼んで貰おうか? 真美を捜すのに……俺たちはどうしたらいいんだよう!?」
「ヒロシ君、落ち着いて……葛西先輩にもう少し話を訊いてみよう」
なるほど、こいつは何かを知っていて隠している様子だった。
「先輩は僕たちに何をやらせようとしている訳ですか? 真美ちゃんを助けるためにも全て話してください」
いつも大人しい草太にしては珍しく、相手に
「分かった。大西君の中西さんへの気持ちがヒシヒシと伝わってきたよ。彼に取って中西さんがどんだけ大事な存在だったということも――」
「そんなことは関係でしょう!」
その言い方にムッとして、俺は言い返した。
「いいや、僕も大事な人を失ってから、ずーっと捜しているんだ。――今の君と同じ気持ちでね」
「……どういうことですか?」
今の、この俺の気持ちが分かって言ってるのか!?
「少し長くなるが聴いてくれるかい」
そういうと、深呼吸をひとつして葛西先輩が話し始めた。
「僕には幼なじみの彼女がいたんだ。名前は
先輩の話の中に、真美を探す糸口がないかと俺たちは聴き入った。
「あれは去年の夏休みの終わりの頃だった――。僕らはこの学校の図書室で受験勉強をしていた。彼女は他校の生徒だけど、図書室の管理をしている
あのキモヲタ教師は義務感みたいな顔して、俺らに授業で勉強教えたら、後はいっさいノータッチというスタンスだからなぁー。新聞部の顧問のくせに全くと言っていいほど、何もしないし、俺たちにも無関心なままだ。
「たぶん六時を少しまわっていたと思う、遅くなって図書室を出た。自転車置き場まで来た時、自転車のキーを図書室の机に忘れてきたと千夏が言い出した。『取りに戻るから、先に塾に行っててね』そう言うと校舎の方へ走って行った。しばらく待っていたが戻ってこなかった。その日は塾の模擬試験があったので、遅くなって慌てていたこともあったけど……そのまま千夏を置いて、僕は先に塾に行ったんだ」
「置き去りにしたの?」
「……僕は死ぬまで、そのことで後悔し続けるんだ」
葛西先輩の苦悩に満ちた表情に……意地の悪い訊き返しだったと俺は恥じた。
「結局、千夏は塾に来なかった……メールしたが返信がない、電話もかけたけど出なかった。――心配になって、家に帰ってからも連絡を入れ続けたら、翌朝、メールが返ってきた『心配しないで』たったそれだけだった。なんか、いつもと違って無愛想なメールだと思ったが、それでも僕は少し安心した。千夏の家の方には、電話があったとか『遠くにいる。しばらく家には帰れない』と、一方的に喋ってから切られたらしい」
そこまで喋って、葛西先輩はフーと長い溜息を吐いた。
この話を人に聴かせることは、あの出来事を思い出して、自分自身、かなり辛いことなのだと……俺にだって、それくらい分かるさ。
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