Pert.11 葛西先輩と俺

 にわかに信じ難く、俺は葛西かさい先輩と名乗る男の顔を凝視ぎょうししていた。

 ――パッと見、俺たちより少し年上に見える。

 葛西先輩は家でヒッキーしていると聞いていたので、オタクで根暗っぽい人物だろうと勝手に想像していたが、身長は173㎝の俺より少し高い、学年トップの成績だったというだけあって秀才っぽい顔つきで、まあイケメンの部類には入ると思う。

 さっきからキョロキョロしているのは眼鏡を探しているらしく、植え込みの中に落ちていたのを草太が拾って渡すと、「ありがとう」と言って眼鏡をかけた。

「新聞部の部長の葛西さんですか?」

 草太が驚いた様子で訊き返していたが、俺はそう簡単には信じないぜぇ。

「あんたが本物の葛西先輩だという証拠はない」

「確かに、君たちとは面識めんしきがないからね。だけど僕は君たちのことを知っている。それは中西真美なかにし まみさんを通じて聞いたこともあるし、実際、君たちが取材している所をこっそり見に行ったこともあるんだよ」

「えっ、見に来てたんですか?」

「前回の新聞で牛丼屋の取材をしただろう? あの時、客に混じって見てた。小西草太君の見事な牛丼の食べっぷりには感服かんぷくしたよ」

 その言葉に草太は面映おもはゆい表情だった。あれで草太は『大食い』の自分を恥じているのだから――。

「いや、本当に感服しているのは、小西くんの絵師としての才能だけどね」

 なんか、調子のいい奴だなあ。

 いつも俺たちの取材をこんな風に陰から見ていたのか。さっき俺が「帰りたい」って言ったら、真美が葛西先輩に叱られると言ったのは、こういうことだったのか。――こいつは俺たちをあやつっているつもりかよ。

「こそこそ俺らを見張ってないで、堂々と出てきたらいいじゃないか」

「――うん、そうだけど、別に君たちを見張っている訳じゃなくて……ある人物と接点を持ちたくないだけなんだ」

 何だか歯切れの悪い言い方だなあ、それは会いたくない人物がいるってことか? いったい誰のことだろう。そんなことより、真美はどうなったんだ!?


「葛西先輩はなぜ倒れていたんですか? それから真美ちゃんのこと知りませんか?」

 草太が俺の代わりに質問してくれた。

「――実は君たちが急に走り出したので、僕も追いかけたんだ。自転車置き場で様子を見ていたら、中西真美さんがこっちにきたので、様子を訊こうとここで立ち話をしていたら、いきなり身体に電気ショックを受けて気を失った。あれは改造したかも知れない……」

 電気ショック? スタンガンだと!? 

 葛西先輩の話に驚いたが、俺は真美のことが凄く心配になってきた。

「それで真美はどうなったんですか?」

「……どうなったか分からない。気が付いた時には彼女はいなかった」

「なんて無責任な奴だ! こんな危険な取材を俺たちにやらせておいて、女の子が一人消えたのに知らないだと――」

「すまない。みんな僕の責任だ」

「ちくしょう! あんたのせいで真美は危険な目に合っているんだぞ!」

 激昂げっこうした俺は、葛西先輩の胸ぐらを掴んでこぶしを振り上げた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る