Pert.10 真美が消えた!

 渡り廊下からつながっているのは、生徒たちの下駄箱と本館の校舎である。取り合えず、謎のセーラー服の少女が向ったと思われる方向へ俺たちは追いかけていった。

 まず、懐中電灯を照らして下駄箱の周辺を探してみたが何も見当たらない。自転車置き場の方にも行ってみたが真っ暗で何も見えない。

 仕方なく古い本館の校舎に入っていった。ここは三階建てで、一階に図書館や理科室、家庭科室、保健室などがある。

「どこにも見当たらない」

「うん。渡り廊下から下駄箱の方へ向っていると思ったけど……」

「やっぱ、お化けだからドロンと消えたんだよーん」

 つまらないジョークを言って、実はビビっている自分を誤魔化ごまかそうとしていた。

 こんな気味の悪い取材なんかもう嫌だ。新聞部なんか絶対に辞めてやる。神に誓って辞めてやるんだ!

「ヒロシ君、僕は見たんだよ。白い影のように……スーッと漂っているセーラー服の女の子」

「やめて! リアル過ぎて怖いよ!」

 もうこれ以上、幽霊の話は聴きたくない! 

 ビビリの俺にはこんな取材は向いてない、前線離脱、卑怯者と呼ばれても俺は帰るぞっ!

「あれ? 真美ちゃんがいない」

 ふいに草太が声を上げた。

「さっきまで、真美も一緒にいたのに……まだ外にいるのかなあ」

 真美を捜しに、もう一度、下駄箱と自転車置き場に俺たちは戻った。


「おーい、真美ー!」

「真美ちゃーん、真美ちゃーん」

 名前を呼んだが返事がない。

 身長150㎝の小さな真美を、漆黒しっこくの闇の中で見つけられるだろうか? 

 懐中電灯の灯りだけでは遠くまで見まわせない。その時、草太がリュックの中から何か取り出した。

「これだ! 真美ちゃんから暗い時には、これを被ってと言われてたんだ」

 それはトンネルの工事現場などで作業員が被っている、ライト付きにヘルメットだった。カメラマンの真美のお父さんが、廃屋の写真を撮りに行く時に被っているというヘルメットで、今日のために借りてきたようだ。

 なるほど、長身183㎝の草太が被るとサーチライトのように明るい。

 まるで灯台のように遠くまで照らしてくれる。《草太、君は太陽だ》なんて冗談言っている場合ではなぁーい。真美を捜さなくっちゃー!


 ライト付きヘルメットのお陰で周辺が明るくなった。

 もう一度、自転車置き場の方へ捜しに行ってみると、植え込みの奥に倒れている誰かの足が見えた。俺と草太は血相変えて駆け寄ったが……それは真美ではなく、見知らぬ男だった。

 横向いて、うずくまるようにして倒れている若い男である。

 辺りに血は流れてないし、外傷はなさそうで、単に気を失っているだけかも知れない。恐る恐る……俺は近づいて行くと、そいつを足で軽く蹴ってみた。

「おいっ、大丈夫か?」

 男はうーん……と、うめいた。どうやら生きているようだ。

 草太が近くにあった水道場からハンカチを濡らして、男のおでこに当ててみたら、しばらくして眼を覚ました。男は起き上がってキョロキョロと周りをうかがい、そして俺たちの方を見た。

「君たちは……」

「おまえは誰だ?」

 一番知りたいことをダイレクトに質問した。

「ああ……僕か、僕は葛西拓巳かさい たくみだ」

「なにっ! 葛西先輩!?」

 俺と草太は、同時に大声で訊き返した。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る