Pert.8 体育準備室の声

 結局、『施錠された食堂から消える食材』の犯人は猫だった。

 まあ、そんなことだろうと妙に納得もした。――が、次の『深夜の体育倉庫から女の呻き声』は……なんか、やらしい感じがするなあ。これは俺がひとりで取材しよう。

 女子の真美や、天使のような心の草太には、見せられない案件かも知れない。ちょっとエッチな期待もしながら……てへへっ。

 三人は校舎を出て、体育館の裏にある体育倉庫に向かう。

 やっぱり深夜の学校ってなんか不気味な感じだ、昼間は生徒たちの活気であんなに賑やかなのに、夜になると……この森閑さはどうだ? マジで幽霊の一匹や二匹は居てもおかしくないとさえ思える。

 うちの学校は歴史が古く、戦時中には空襲で多くの生徒たちが校庭で亡くなったとか……そういう話を思い出すと、ブルッと冬でもないのに寒気が走った。


 どうして、こんな気味の悪い取材を俺たちにさせるのか、葛西先輩の真意が分からない。

 ノリで決めた企画かも知れないけど、深夜に『学校の怪談』なんて……マジで勘弁して貰いたい。――この取材が終わったら、俺は絶対に新聞部を辞めてやろうと心に固く誓った。

「体育倉庫には俺一人で入るから、真美と草太はここで待っててくれ」

「えっ? どうして、私たちも一緒に取材するわ」

「何かあったら大声で呼ぶから、俺一人で大丈夫」

「ヒロシ君、僕も行くよ」

「草太はいいよ。デカイし目立つからさ」

 心配そうな草太の気持ちをわざと無視して、真美から預かった鍵を使い体育倉庫を開けて中に入っていった。


 倉庫の中は二部屋に分かれていて、手前の部屋にはハードルや平均台、ボール類などが置いてある。奥の部屋はマットと飛び箱があるようだ。

 何しろ真っ暗なので、這うようにして、俺は奥の部屋に向かった。

 ドアの隙間から微かに灯りが漏れている。そこから覗いたら……男女がマットの上でプロレス、違う、いきなり18禁の情景だった! 女の喘ぎ声が漏れ聴こえてくる。

 段々と暗闇に目が慣れて、窓から差す月明かりと倉庫に置かれたランタンでそこに居る男女の顔がぼんやりと見えてきた。

 あの禿げ頭は教頭の田村ではないか!? そして女はバツ1だが清楚で美人と男子生徒に人気のある保健室の奈津子先生だった。まさか、この二人がこんな関係だったとは……少なからずショックだった。

「ああ、こんなところで……する……のって、興奮するわ」

「奈津子先生も……スケベ……だなあ……」

「いやん……教頭先生の……エッチ……」

 途切れ々とぎれとぎれに男女の会話が聴こえた。

 バカ野郎! そんなにスリルを味わいたいのか? 

 こんな破廉恥はれんちなことを俺らの学校でやるんじゃない、ラブホでやれよ。――こいつら教師としての精神が腐ってる!

 俺は怒りを込めて、赤外線スコープを使って恥知らずの教師の恥かしい写真を撮ってやった。これは、いつか役に立つかも知れないと……そんな予感がした。

 ん!? その時だった、反対側の窓の向うに赤い光がチラッと見えたような気がする。

 あれ、なんだろう?


 ――これ以上は嫌悪感で見ていられなかった。

 体育倉庫から出てきた俺は、外で待っている二人には「何もなかった」と素っ気なく答えた。しかし真美は感が鋭いので、俺が何か隠していることを察知しているようだった。

 あんな醜悪しゅうあくな教師のことなんか、口にすることさえ気持ちが悪かった。

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