Pert.4 俺と親友の草太

 俺と小西草太は中学からの親友なのだ。

 草太は小西と小さな西だが、実は身長183㎝体重80k以上という巨漢なのである。家は手作りパンのお店で、まん丸でにこやかな顔のせいで、みんなに『アンパンマン』と呼ばれている。

 大きな身体の草太だが、とても繊細で気が優しい、花や動物が大好きメルヘンな奴だ。

 図体はデカイが、人に逆らわない性格のなので、中学二年の頃、いじめっ子グループの標的にされていた草太、カバンや荷物を持たされたり、パシリに使われたり、家からパンを持ってこさせたりと、奴らにように利用されていた。

 同じクラスだった俺は、見兼ねて、いじめっ子グループの奴らに、草太の代わりに文句を言ってやったが、当の草太が虐められている自覚が全くなくて……何を言われてもニコニコしている。

 ――そんな草太がどんだけ歯がゆかったことか!

 結局、俺がクラスの虐め問題を先生に訴えて、学級委員会で話し合ってから、いじめっ子グループの草太への露骨な虐めはなくなった。

 いじめられっ子の草太だが、実はアンパンマンのように正義感が強い男なのだ。


 あれは中三の時だった。俺と草太は同じ塾に通っていて、夜、塾帰りに自転車で公園の前を通りかかったら、犬の鳴き声が聴こえた。

 それはキャンキャンと泣き叫ぶような悲痛な鳴き声だった。

 薄暗がりの公園の中を目を凝らしてよく見たら、一匹の仔犬が首にヒモを巻かれ引きずり回されて、まるでサッカーボールみたい蹴飛ばして遊んでいる奴らがいるではないか。

 仔犬をオモチャにしていたのは、高校生くらいの男子三人組だった。


 ――それを見た瞬間、草太の顔色が変わった。

 いきなり自転車を乗り捨てると、その三人に向かって突進したのだ。あっという間に三人組をブン殴り、蹴りを入れ、投げ飛ばしていた。

 俺は呆気に取られて、その場面を茫然と見ていたが……あの気の優しい草太にあんな暴力的な部分があったのかと、ただただ驚いていた。

 まるで素朴な顔のご神体ハニワが、怖ろしい大魔神だいまじんに変身したようだった。

 あんな怖い顔の草太は初めて見た。《お静まりください。草太さま……》急に現れた巨漢の人物、まさか相手が中学生だとは思っていない……に、ボコボコにされて、ほうぼうのていで奴らは逃げていった。

「こ、この野郎、覚えてやがれ―――!」

 最後に、お決まりの捨て台詞もただ虚しいだけだった。


 その後、ぐったりした仔犬を胸に抱きしめて、草太は涙を流していた。

 傷だらけの仔犬を獣医に連れていきケガが完治するまで、ずっと仔犬の世話を草太がていた。ビラを配って飼い主を探したが、誰も名乗り出なかったので――結局、草太の家で飼うことになった。

 チーズと名付けられた雑種の仔犬は、今ではパン屋の看板犬かんばんけんになっている。


 草太の隠された能力はそれだけではない。

 実はイラストレーター志望なのである。草太の描く女の子は色使いが美しく、繊細で緻密でプロ顔負けに上手いのだ。

 ネットの絵師専用SNSでも草太の人気は高く、頼まれて同人誌の表紙画を描いたら、コミケでその本は飛ぶように売れていた。

 コミケを取材にいった俺は、その様子をたりに見て《もしかして、草太って天才絵師かもー?》と思ったくらいである。

 新聞部では俺が記事を書き、真美は写真を撮る。草太は新聞のレイアウトとイラスト担当、それぞれ役割分担が決まっている。

 だけど、俺たちの作った学校新聞は教室で配っても人気がなく誰も読んでくれない……女子なんか草太のイラストだけ切り抜いて、後はゴミ箱へポイである。

 だから、こんなむなしい『新聞部』を辞めたくて仕方ないが、真美と草太がやる気満々で許してくれないのだ。おまけに俺はというにんまで背負わされている。


 ああーあ、もうどうにでもなれって気分の大西洋です。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る