Pert.2 俺のカミングアウト

 あることが原因で俺は真美にいっさい頭が上がらない。この上下関係はヘタすると一生続きそうで怖ろしい。

 そのあること、とは……。

 まあ、その核心に入る前に、俺と真美の運命的な出会いについてお話ししよう。

 実は俺と真美は誕生日が同じなのだ。

 俺らの母親は同じ産婦人科で同じ日に赤ん坊を生んだ、それが俺と真美――。母親同士が初産で年も近いし家も近所だと知って、ママ友になった。

 お互いに育児の相談なんかしながら俺らを育ててきんだが、子育てを終えた今でもふたりはとても仲が良い。

 ちなみに真美はひとりっ子だが、うちは俺の下に三つ違いの弟がいる。

 俺たちは誕生日が一緒だということで、小さい時から両方の家で誕生日のお祝いをして貰ってきた。真美ン家と俺ン家で二回お誕生日会があるのだ。

 それが当たり前だと思うくらい、物心ついてからずっと続いていて、まさに慣例行事かんれいぎょうじだったのだ。

 そして今年もやはりその慣例は実行されて、真美は楽しそうだったが、毎年々、アイツと一緒にバースディケーキのろうそくを吹き消さないといけないんだぜぇー。まったく高校生にもなって恥かしい「もういい加減やめてくれ!」と俺は心の底から叫びたい。

 

 ああ、また脱線してしまったが……。

 ズバリ言っちゃうと、真美に弱みを握られていて逆らえないのだ。

 その弱みと言うのは……俺が小学五年生の時だった。母親同士が仲良しなので、俺たちは小さい時からお互いの家で泊り合いをしていた。真美の母親が取材で出張する時には、二、三日うちに泊りに来るのは当たり前だった。

 女の子がいないので真美が来ると、うちの母親は大喜びで一緒に料理を作ったり、手芸したりして、弟のマサシがひがむほど仲良し母娘おやこぶりを発揮するのだ。

 真美は家族同然なので、俺たちは小学校の高学年になっても一緒に寝たりしていた。その日は寝る前に、みんなで大きなスイカを食べたのだった。そのせいか、真夜中に目を覚ますと何だかパジャマのズボンが濡れている。ゲゲーッ! 俺、オネショしちゃった!?

 まさか、五年生にもなってオネショするとは思わなかった。

 どうしよう? 俺の右隣には真美が眠っている。左隣には弟のマサシがいる。あれれ、いつの間に弟まで俺の布団にいるんだ。とにかく、濡れたズボンを脱いで何んとかしなくては……。

 俺が焦ってモゾモゾしていたら、その気配で真美が目を覚ました。

「ヒロシ……」

「な、何でもないから寝てろよ」

 俺は小声で真美を寝かせようとしたが……。

「あれぇー? 濡れてる?」

 しまった! オネショがバレた。

「た、た、頼むから、このことはナイショにしてくれ」

 俺は泣きそうな声で真美に懇願した。

 もし五年にもなってオネショしたなんてクラスの奴らに知られたら……それこそ一生笑い者にされて、イジメられるに違いない。

 気持ち悪いのでパジャマと下着は即着替えたが、この布団をどうしよう? ぐっしょりと濡れている。

「ヒロシ、その濡れたズボンはマー君に穿かせなよ」

「えっ?」

 マー君とは、俺の弟のマサシのことで、まだ小学二年生で寝ぼけてオネショする癖がある。

 何んという悪知恵! この場合、マサシが犯人なら誰も疑わない。酷いこととは知りつつ、濡れたズボンを穿かせ、オネショ布団の上に弟を寝かせた。その後、母親にマサシがオネショしたと伝えに行った。

 母親は「あら? マー君がヒロシのパジャマをなぜ着てるの?」と、ちょっと不思議そうな顔をされたが、まさか五年にもなった長男がオネショする筈ないと、マサシを起こして着替えさせていた。そして濡れた布団はベランダに干した。

 弟はオネショしたかどうか眠っていて自覚がないので、その罪をすんなりと受け入れていた。たったひとりの弟に罪を被せた、俺は最低の兄貴だった――。

 さすがにマサシに悪いと思った俺は、ゲームボーイアドバンスのレアなポケモンを通信でマサシのDSにいっぱい贈ってやった。兄からのビックなプレゼントに弟は目を丸くして喜んでいた。

 これがせめてもの罪の償いだとも知らずに……。

 そして、真実しんじつを知っている真美まみに、口止めを頼んだ俺は弱みを握られてしまい、もう一生逆らえなくなってしまったのだ――。

 まあ、これが俺と真美の過去のカミングアウトなのである。

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