第五十話 二人の最強による、旅行二日目の朝


 ――アタル視点――


「ん……ん~~っ」


 僕は体を起こして両手を思いっきり天井に伸ばした。

 あぁ、よく寝た。

 すっげぇエッチな夢見ちゃったけど。

 うん、これは由加理ちゃんのせいだな。

 

 僕はスマホを手に取って時間を確認すると、朝の六時半だった。

 昨日は早く寝たからなぁ、その分早く起きちゃったって訳だ。

 隣のベッドを見ると、アデルさんはまだ寝ていた。……涎を垂らしながら。

 何て言うか、うすら笑みを浮かべて寝てるんだよね。どんな夢見てるんだか……。

 とりあえず、魔王様の貴重な涎シーン、ゲット!

 僕はスマホを構えてカメラアプリを起動、すぐさま写真を撮った。

 そして、由加理ちゃんに写真付きでメッセージを送った。


『おはよう。魔王様の貴重な涎シーンを、取材班は撮影した!』


 すると、すぐ帰ってきた。

 もう!?

 由加理ちゃん、何時に起きてるのさ!?


『おはよ~♪ あは、超可愛い♪』


 可愛いパンダがくねくねしているスタンプも加えて送られてくる。

 ……何だろう、彼氏としては僕以外の男をそういう風に褒めると、ちょっとムッてするんですけど。

 すると、さらに由加理ちゃんからメッセージが届く。


『でも、アタシはあっくんの寝顔が見たいなぁ』


 これまた可愛いパンダがおねだりしているようなスタンプが送られてきた。

 そっか、僕の寝顔を見たいのか……。

 すっごく深読みすると、僕と一緒に朝を迎えたいって聞こえるんですけど!

 ふむ……、ならばちょっとしたいたずらしてみるか。


 ふっふっふ、異世界に行った僕は結構イケメンらしい。

 ならば! それを活かさなくてどうするのさ!

 僕はベッドに寝転び、ホテルが用意している浴衣を着ていたのでわざと胸元を開かせ、右手で前髪を上げる動作をしつつ斜め四十五度から自撮りをする。そしてそれを送る!


『はい、僕の寝顔』


 結構格好よく撮れたはず!

 さぁ、どんな反応が返ってくるかな?

 

 ……


 二分経過したけど、返ってこない。

 あ、あれ?

 そんなにダメだったかな、あの写メ。

 僕としては自信作なんですが。

 すると、ようやくメッセが返ってきた。


『もう、アタシを悶死させたいの?』


 あっ、悶絶してたんだ。

 こんな僕で悶絶してくれるの、由加理ちゃんだけだと思う。いくら僕がイケメンになったからって、こんなに好いてくれるのも由加理ちゃんだけだと思う。

 おっ、また由加理ちゃんからメッセージが来た。


『お返し♪』


 お返し?

 何が来るんだろう?

 そして由加理ちゃんから写真が送られてきた。

 写真を見ると――


 …………








「ふぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!」


 叫んでしまった!

 叫びたくなるよ、もう、もう、もう!!

 あろうことか、由加理ちゃんはとんでもない写メを送ってきた!

 真上からの角度で自撮りしている写メなんだけど、空いている手でわざとシャツの胸元を引っ張って、胸の谷間を少しちらつかせてるんだ!

 しかも、ウインクしててちょっと舌をペロッて出してるし!!

 超可愛いし、エロい!!

 や、やっぱり由加理ちゃんって、胸ある方だなぁ……。

 あぁくそっ! 朝から思春期の男子の性欲を刺激しないで!!


『由加理ちゃん、本当に襲いたくなるからマジ勘弁』


『だめだった?』


『ダメじゃない、むしろ永久保存しました本当にありがとうございます!』


『よかった♪』


 何がよかったの!?

 っていうか、昨日僕が襲う宣言したら積極性が増した気がするんですが。

 何だかんだで、期待されてる?


『じゃあアタシ、今日は文化祭の準備するからそろそろ学校行くね』


 えっ、文化祭!?

 いつやるの?

 行ってみたいんだけど!


『いつやるの?』


『今週の土日だよ』


 という事は三日後か……。

 何とか行けるな。

 確か、今こちらの日付は五月の中旬だったよなぁ。

 結構早く文化祭やるんだね。


『僕も行っていい?』


『来て、絶対に来て! アタシメイドさんやるんだ!』


 なぬ、メイドさん!?

 

『絶対に行く! でも、他の男には気を付けて!』


『うん♪』


 はぁ、由加理ちゃんのメイド姿……超楽しみ。


「あの、アタルさん。朝から五月蝿いんですけど……」


 隣を見ると、アデルさんがジト目で見ていた。

 確かに叫んだりしちゃったからなぁ。


「ごめんごめん、ちょっと由加理ちゃんが素敵なものをくれたから、つい叫んじゃって」


「どうせ際どい写真を送ってもらって喜んでたんでしょう?」


 バレテーラ。

 そういうアデルさんは、速攻でスマホを手に取って夢可さんにおはようメッセージを送信していた。

 本当にぞっこんだなぁ、魔王様。


「とりあえず、早いけど朝食食べようか?」


「そうしましょうか」


 このビジネスホテルは朝食バイキングが用意されている。

 おかわり自由なんだって!

 僕達は部屋を出て、一階の食堂へ向かった。







 ――アデル視点――


 いやぁ、これでも随分日本に慣れた気でいたのだが、まだまだだったな。

 このバイキングというシステム、本当に素晴らしい!

 様々な料理が並んでいて、自分で選んで好きな量を食べていいという物なのだ!

 うーん、これは迷うぞ……。


「どう、アデルさんは何食べるか決めた?」


「いえ、まだです。アタルさんは?」


「ほい、この通り!」


 もうお盆に置いてある皿には、スクランブルエッグという食べ物とソーセージ、そしてレーズンというものが入っているパンを選んでいた。

 ふむ、私もアタルさんを真似てみるか。

 皿の上に食べたい料理を盛った後、アタルさんと同じ席に座った。


「「いただきます!」」


 まずはこのスクランブルエッグだな。

 どうやらケチャップなる赤いとろみがある調味料を付けるのがいいらしい。

 どれどれ?

 ……うん、美味いな。

 飛び抜けた美味さではないが、安心できる味だ。

 食べてわかったけど、卵料理なんだな。

 そしてパンも食べてみる。

 ほぉ、このレーズンという物は酸っぱさが少しあるが、甘い。それが不思議とパンとマッチしている。

 これはなかなか……。


「でさ、今日は温泉に行く?」


 私がパンに夢中になっている時、アタルさんに話し掛けられた。

 おお、ついに温泉に行くのか!


「はい、是非行きたいです!!」


「なら午前中に温泉へ行って、午後は松本城でも見に行こうか?」


「それがいいですね。温泉、きっと素晴らしい場所なのでしょうね!」


「ん~、僕も実は温泉初体験だから、事前に教えられないなぁ」


「逆にそれがいいです。自分で素晴らしさを確認できますから!」


 すると、食堂に見覚えのある人物が入ってきた。

 奥野さんだ。

 あぁ、この人がこの場に現れるという事は、よくないニュースを聞かされるんだろう。

 せっかくの気分を削がれそうだ。


「よう、アタルとアデル」


「どーも、奥野さん。朝から暗くなるニュース?」


「まぁそうなんだが、多分お前達にも害が及ぶだろうな」


「……聞いた方が良さそうですね、アタルさん」


 奥野さんは私の隣の席に座り、ノートパソコンを机の上に置いた。

 この機械も便利だよな、持って帰りたい。

 奥野さんはノートパソコンにタイピングをした後、私とアタルさんにそれを見せた。

 

『念話で話したい。繋いでもらえるか?』


 まぁ大声で話せる内容じゃないだろう。

 アタルさんは頷いて、念話を発動させた。


『あ~、聞こえる?』


『大丈夫ですよ、アタルさん』


『こっちも大丈夫だ、勇者』


 私達は朝食を食べながら、念話で話をした。


『昨日だがな、長野県警に犯行声明が届いた』


『へぇ、どんなの?』


『松本城を、発火するってな』


「「はぁ!?」」


 念話をしているのに、あまりの内容に私とアタルさんは実際に声で反応してしまった。

 あまりの大声に周囲の視線が痛い……。


『貴方が把握しているという事は、異能力者と睨んでいるんですね?』


『そうだ。実は昨日、とある一家が惨殺された。その殺害方法があまりにも異質でな』


『……どうせ朝食中に聞くような殺し方じゃないんでしょ?』


『まぁな。母親が脳だけが丸焦げになった状態、父親は頭が爆発してて、一人娘は全身丸焦げだ』


『うへぇ、完璧に異能力じゃん』


『しかも娘の発火元がなかなかでな』


『……何処からでしょうか?』


『……子宮からだ』


 また何とも発火しないところから発火しているな。

 魔術でもそんなピンポイントな臓器を攻撃する手段は、出来なくはないが難しい。

 この犯人、相当思考が危ないな。


『とりあえず、俺も現場で見張っている。もし遭遇したら連絡するからよろしく』


『『……はい』』


 旅行に来てまで戦闘か。

 もうさ、ここまで来たら呪いかって思う位だ。

 まぁいい、とりあえず温泉を楽しもう。

 憂鬱にはなったけど、温泉を楽しんだ後なら戦ってもいい。

 速攻で秘密裏に暗殺して、松本城を堪能しよう。

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